歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

被害者を「悪者」に仕立て上げるモラハラ人間②偽の被害者

1.偽のモラハラ被害者

 

イルゴイエンヌによれば、「モラル・ハラスメント」という言葉が一般化されると、偽のモラハラ被害者が現れるようになり、自分が気に入らない相手を「モラハラ加害者」として、社会的に打ちのめそうとするようになりました。

偽のモラハラ被害者は、多分に加害者的です。同じタイプの人が、モラル・ハラスメントの加害者にも、偽被害者にもなります*1

 

それで、イルゴイエンヌの二冊目の著書に付けられた原語での副題は ”démêler le vrai du faux”(真偽を見分ける)というものでした。

 

 

「世の中には被害者の立場になりたがる人たちがいる。[…] 私はよくこの手の人々を診察室に迎え入れることがあるが、その人たちは『私は被害者です』と勝ち誇った顔で入ってくると、その状況からどうやって抜けだせば良いのか、私に相談するのではなく、<これはモラル・ハラスメントだ>という診断書を出してくれるよう、私に要求する。そうして、その診断書を自分が置かれていると思いこんでいる不幸な状況に復讐するために使うのである。人的な恨みを晴らすために利用する場合もあるし、補償金を請求するのに利用する場合もある。[…]

 確かに被害者の立場でいることには、多くの利点がある。たとえば、失敗をして困難な状況に陥っても、責任をまぬかれて、文句を言うことができる。『これは私のせいじゃない。誰それが私を陥れようとしたのだ』というわけだ。悪いのはいつも他人なのである。もしそうなら、自分をふり返ることもなければ、罪悪感を持つこともない。いつでも潔白でいながら、それでいて同情を買うことさえできるのだ。これほど居心地のよいことはない。だが、現代の世の中では、このように他人に責任を押しつけることが一般化している」(イルゴイエンヌ, 2003, pp. 95-96)。

 

日本の会社でも、やたらと被害者意識が強く、すぐに「ハラスメントだ!」と言って訴える人たちが増えてきているようです。職場ではそのような人々による下らない「ハラスメント事件」に振り回されていられませんから、それで「パワハラ」の規定として、パワハラ行為者とされる人の指導が、「適正な業務の範囲を超えている」かどうかが考慮されます。

 

「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す (講談社+α新書)

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  • 作者:野崎 大輔
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2.被害者を騙る攻撃者たち

 

精神科医岡田尊司先生は『誇大自己症候群—あなたを脅かす暴君の正体—』, 朝日文庫, 2017年」という本を書いています。

 

岡田先生が「誇大自己症候群」と呼んでいるのは、幼児的な自己愛構造を抱えた人々のことです(必ずしもパーソナリティ障害や発達障害とは限りません)。岡田先生は、不可解な犯罪やDV、ストーカー、イジメ、ハラスメントといった問題を起こす人々によく見られるのが、「誇大自己症候群」だと指摘しています。

 

その特徴の一つに、「思い通りにならないことに対してプライドを傷つけられ、辱めを受けたように感じ、激しい怒りや憎しみを覚える」(前掲書, p. 78)というのがあります。

 

 誇大自己の万能感は、その絶対性を傷つけられると自己愛的怒りを生む。[…]すべて自分の思い通りになることを期待し、自分こそ正しいという思い込みが否定されることから生じる怒りなのである。[…] 相手に『思い知らせる』ために相手の存在を消し去ることさえ躊躇しない。些細な傷つきであろうと、膨らんだ思い上がりゆえに『許せないほどの侮辱』と受け止めてしまうのである。

 もちろん、当人は神でも王でもなく、それほど大げさな侮辱や攻撃が行われたわけでもないのだが誇大自己そのものが、本当の強さや裏付けのある自信から生まれたものではなく、劣等感や弱さや小心をごまかすためにまとった『強がりの仮面』だからである。些細な軽視や非難さえ、彼の劣等感や卑屈さを刺激し、傷つけられ脅かされたと感じ一層傲慢で、尊大で、権柄ずくの反応を引き起こす。その瞬間、誇大自己は自分こそが「被害者」だと感じている。被害者だから、不当な攻撃を行った相手に反撃することは正当であり、それをしないことの方が沽券にかかわると思うのである(前掲書, pp. 91-92)。

 

岡田先生によれば、彼らは自己の内に「極端な破壊性」を秘めています。

つまり、彼らは些細な事で自分が侮辱されたと感じて、「自分は被害者だ」と感じ、「自己愛的怒り」から相手を破壊しようとする攻撃を行います。

 

 

 

以上で述べたように、偽の被害を訴える人たちは、DV、ストーカー、イジメ、ハラスメントの加害者になりやすいのと、ほぼ同じ種類の人たちです。加害と被害の関係が逆転した話になっていて、「加害者」扱いされている人の方が、実際の被害者であることも、しばしばあります。

 

ところが、たまに大変残念に思われる現象があります。それは、本物の被害者の方たちが、偽の被害者(実際には攻撃者)の味方になり、実際の被害者を一緒になって攻撃していらっしゃることがあることです。

これは、被害者の方が「被害者」とされている人物に感情移入し、「加害者」とされている人物に、自分に危害を加えてきた加害者の像を投影してしまうからなのですが・・・。

 

本物の被害者と偽の被害者を見分けるのは難しことではないので、次回、そのポイントについて書こうと思います。 

 

*1:「実際にはそうではないのに被害にあったと主張するのは、〈自己愛的な変質者=モラル・ハラスメントの加害者にいちばんなりやすい人〉の得意技でもある」(イルゴイエンヌ, 2003, p. 102)。