歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

なぜこんな被害を受けたのか? ― 加害者が変質者だからです

 モラハラに遭っている方はもう充分よくご存知だと思いますが、「モラルハラスメント」という言葉を提唱したマリー=フランス・イルゴイエンヌの『モラル・ハラスメント—人を傷つけずにはいられない』は、犯罪被害者学の立場から、被害者救済の視点に徹して書かれた良書です。この本によって救われた方がどれだけいるか分かりません。また、人の精神に対して行われる悍ましい犯罪的行為に、それまで名前がなかったというのは恐るべきことです。そもそも名前がないような被害を、被害者は他人に分かるように訴えることができないからです(しかも、加害者は被害者の方に非があると主張して歩く人たちです)。「自分がとてつもない嫌な目に遭っていたのは、『モラハラ』だったのか」と分かっただけで、半分はもう救われたようなものではないでしょうか。

 

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

 

 

 PTSD心的外傷後ストレス障害)と同様に、モラハラの被害者がセラピスト(とりわけ精神分析医)のもとへ行っても、理解してもらえないことが多いようです。*1

 

精神分析医が被害者に対して、<どうしてこんな被害を受けたのか?>、<それは受けたほうにも責任があるのではないか?>、<たとえ無意識にしろその状況になることを望んでいたのではないか?>と、そういったことを考えてみるよう忠告することさえあるのだ(被害者に対してはこれは逆効果である。被害者は分析医に拒否されたと感じるだろう)。だが、分析医がそういった態度をとるのもしかたがない。精神分析は患者の心的装置、すなわち患者の心のなかで起こったことだけを問題にして、現在患者がおかれている状況は考慮に入れないからだ。その結果、医師は被害者を加害者に対するマゾヒスト的な共犯者だと考えがちで、そう考えることがどんなに重大なことかわからないのである。仮に被害者を助けたいという気持ちがあったとしても、道徳的な価値判断をしないという理由から<加害者>と<被害者>という言葉を使うことをためらい、結果として被害者の罪悪感を増大させて、事態を悪化させてしまうこともある(前掲書, p.26)。

 

 そこでイルゴイエンヌは加害者を、「凶悪な」というニュアンスをこめて<変質者>と呼ぶ。自己愛的な変質者である。

 

モラル・ハラスメントの加害者は心理的に相手を殺していき、その行為を繰り返していく・・・。他人の人生を自分のものにして生きていくのだ。これはこれは精神の連続殺人なのである。(前掲書, p.25)

 

私からすれば、モラル・ハラスメントの加害者を<変質者>と名づけないことのほうがより重大だと思われる。というのも、そうしなければ人々が事態を正しく認識することができず、被害者たちを打ち捨てておくことになってしまうからだ。(前掲書, 同頁)

 

 

echo168.hatenablog.com

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*1:この本が書かれた当時と状況が変わっていれば良いのですが、イルゴイエンヌの書いているとおりだとしたら、精神分析医はどうかしていると思います。患者の精神分析をするのが仕事だから、被害者のどこがおかしいか分析しようとするのかもしれませんが、明らかな加害者がいる場合、それが原因に決まっています。被害者は自分が置かれた状況を理解できずに苦しんでいます。加害者について誤った思い込みをさせられており、対応に苦しんでいるのです。精神分析学の知識は、加害者がどのように異常かという理解をもたらすものです。それを被害者である患者に教えるだけで、患者の症状はどれだけ良くなるか分からないと思います。言葉にしにくい嫌な事をされるのは、正常な人ならしないような事をしてくるからです。普通、言語は正常な人たちの間のものだから、これらの異常な人たちがしてくる嫌な事を表現する言葉が、私たちのもとに、あまりないのです。