ドメスティック・バイオレンス(DV)
ドメスティック・バイオレンスについての概要(内閣府男女共同参画局による)
身体的なもの
殴ったり蹴ったりするなど、直接何らかの有形力を行使するもの。
刑法第204条の傷害や第208条の暴行に該当する違法な行為であり、たとえそれが配偶者間で行われたとしても処罰の対象になります。
- 平手でうつ
- 足でける
- 身体を傷つける可能性のある物でなぐる
- げんこつでなぐる
- 刃物などの凶器をからだにつきつける
- 髪をひっぱる
- 首をしめる
- 腕をねじる
- 引きずりまわす
- 物をなげつける
精神的なもの
心無い言動等により、相手の心を傷つけるもの。
精神的な暴力については、その結果、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に至るなど、刑法上の傷害とみなされるほどの精神障害に至れば、刑法上の傷害罪として処罰されることもあります。
- 大声でどなる
- 「誰のおかげで生活できるんだ」「かいしょうなし」などと言う
- 実家や友人とつきあうのを制限したり、電話や手紙を細かくチェックしたりする
- 何を言っても無視して口をきかない
- 人の前でバカにしたり、命令するような口調でものを言ったりする
- 大切にしているものをこわしたり、捨てたりする
- 生活費を渡さない
- 外で働くなと言ったり、仕事を辞めさせたりする
- 子どもに危害を加えるといっておどす
- なぐるそぶりや、物をなげつけるふりをして、おどかす
※生活費を渡さない、もしくは仕事を制限するといった行為は、「経済的なもの」と分類される場合もあります。
性的なもの
嫌がっているのに性的行為を強要する、中絶を強要する、避妊に協力しないといったもの。
夫婦間の性交であっても、刑法第177条の強制性交等罪に当たる場合があります(夫婦だからといって、暴行・脅迫を用いた性交が許されるわけではありません)。
- 見たくないのにポルノビデオやポルノ雑誌をみせる
- いやがっているのに性行為を強要する
- 中絶を強要する
- 避妊に協力しない
(注:例示した行為は、相談の対象となり得るものを記載したものであり、すべてが配偶者暴力防止法第1条の「配偶者からの暴力」に該当するとは限りません。)
具体的な事例については、下のページをご参照ください。
なぜ逃げられないか
無力感
被害者は暴力を振るわれ続けることにより、「自分は夫から離れることができない」「助けてくれる人は誰もいない」といった無気力状態に陥ることもあります。
複雑な心理
「暴力を振るうのは私のことを愛しているからだ」「いつか変わってくれるのではないか」との思いから、被害者であることを自覚することが困難になっていることもあります。
経済的問題
夫の収入がなければ生活することが困難な場合は、今後の生活を考え逃げることができないこともあります。
子どもの問題
子どもがいる場合は、子どもの安全や就学の問題などが気にかかり、逃げることに踏み切れないこともあります。
失うもの
夫から逃げる場合、仕事を辞めなければならなかったり、これまで築いた地域社会での人間関係など失うものが大きいこともあります。
加害者のタイプ
古典的には、レノア・ウォーカー『バタードウーマン―虐待される妻たち』(金剛出版)で述べられている、次のようなタイプです。つまり、暴力がサイクルになっており、パートナー間に緊張がたかまり、暴力がふるわれる時期があり、さらにその後に加害者が許しを乞い、やさしさを示す時期があります。被害者はやさしい時期が「ほんとうの」パートナーだと思い、逃げることを考えなくなります。
小西聖子『ドメスティック・バイオレンス』(白水社, 2001年)によれば、近年は、さまざまなタイプがあると考えられており、はっきりしたサイクルも見られないケースが多いようです。概して、加害者のタイプには以下のようなものがあります(pp.156-163)。
①共感性の欠如
②情緒の不安定
・感情、とくに怒りのコントロールができない。
・つねにコントロールが悪く、ちょっとしたことでどなり、暴力をふるう人。
・ふだんは温厚なのだが、あるとき切れると、怒りにわれを忘れる人。
・アルコール乱用があって、飲んでしばらくすると顔色が一変し、家のなかのものを壊し、暴言を吐き、妻に暴力をふるう人。(多くの場合は気弱であり、外では完全にコントロールしていて家で爆発する。)
③激しく不安的な対人関係と、見捨てられないための常軌を超えたふるまい
・依存と攻撃が同時に存在するような状態での暴力行為。
・自殺すると脅す。自傷行為。無理心中を図る。
・ストーキングの一部はこうした<見捨てられることのできない>人たちの脅迫的な行動からなっている。
・最初から自分が愛されるか否かということにしか興味がなく、相手の人格に興味をもったりしないが、やがては相手の感情さえ無視して、自分で支配するか、あるいは失うかということだけになってしまう。
・相手の感情などまったく考えないという点で、自己中心的な判断をする。
・見捨てられ恐怖(小西, 前掲書, pp.173-174)。捨てられないための一つのやり方が、暴力による支配。粗雑な方法ではあるが、自分のそばから人が逃げないようにするには、縄でくくっておけばいい。
④男らしさ
・かたくなな男性中心主義の価値観をもっていることもある。
・自分が責任をもつことへの不安、自分がじつは弱い人間であることへの不安、女性に捨てられないかという不安、軽蔑されないかという不安など(不安や劣等感)が、このような男性中心的な価値観を裏で支えていることは多い。
被害の過小評価と否認(小西, 前掲書, pp.163-166)
加害者は自分を正当化し、被害を矮小化し、否認する。被害者の方も、事件を軽く捉える傾向が指摘されている(※洗脳され、「自分が悪い」と思わされているためと思われます)。
①過小評価
「ちょっとおどかしてやっただけです」、「ちょっとつかんだだけです」、「妻はすぐにあざができるんです」、「痴話ゲンカってやつです」。
②正当化
「自分のボタンを押してしまった」、「自分を追いつめた」、「頭を変にさせた」、「相手が不安的になって、自分が決めたルールを破ったからだ」。
・他罰的
・思いどおりにさせようとする
※ DV加害者には、<自分とは違う意志や感情をもつ他者に対する恐怖>があると言えそうです。*1 情緒不安定で、ストレス耐性が低すぎて、思いどおりにさせないと気が済まないところもあるのでしょう。
*1:「もちろんこれは、若い親と子どもの関係でも同じである。親となりながら、子どもの気持ちを汲んでやることができない自己中心的な人たちは、『力による支配』に陥りやすい。また捨てられるというより子どもの場合は、思うとおりにならない、『人なみ』にならない不安が暴力を生む原因となる。これも対人関係が未熟だと危険は増すだろう」(小西, 前掲書, p.176)。「育児に対するあせりや、子どもという、自分とはちがう意志や感情をもつ他人に対する不安や恐怖が、結局パワーによる支配の構造にはまってしまう」(小西, 前掲書, p.116)。