歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

被害者を狂気にすら追い込む、モラハラ加害者の<変質的なやり方>

 あまり、ここまでのことになっている方はいらっしゃらないと思いますが、もともとこのブログは、特にひどい精神的被害を受けている方たちのために、状況を理解し、そこから抜け出す手がかりにして頂ければと思って作ったブログです。

 

 典型的なモラル・ハラスメントにおいては、被害者は加害者から皮肉やほのめかしを通じた侮蔑や嘲弄、中傷を受けますが、表面上は、加害者の悪意は存在せず、被害者自身の問題であることになっています(加害者の悪意は妬みのような感情から発しているものなので、被害者はそのようなものは理解できません)。ハッキリ表明されていない加害者の<悪意>を、被害者があえて問題にしようとすれば、気まずくなるのが明らかなので、被害者は面と向かってそうしたことをしにくくなります。こうして、加害者は被害者から文句を言われる心配なしに、被害者に意地悪ができます。たまりかねて被害者が加害者と話し合おうとすれば、加害者は「被害者の性格が悪い」、「下らない事を気にして怒っている、みっともない奴だ」という話にしてくるでしょう。こうして、加害者の態度に機嫌を悪くすると、被害者はさらに人格攻撃を受けます。

 そのようなやり方は、被害者のまともな感覚を狂わせていきます。加害者は、自分が密かに被害者を攻撃したことにより生じた被害者の精神的苦痛や動揺を、人間として<見苦しいもの>として突きつけて見せることにより、ただでも傷付いている被害者の自己評価を、ますます低いものにさせます。*1 人を動揺させるには、その人の心を傷つけることをすれば良いので、加害者はそうした事をしてきますが、被害者は加害者が何の為にそんな事をしなければならないのか、普通の人としては理解できないので、わけの分からない攻撃を受けることになります。徐々に加害者の攻撃は、被害者の全人格に及ぶようになります。被害者は、正常な自己感覚が失われたまま、人格を全否定してくる攻撃に対して、自分の精神を守ることができなくなります。

 

 また、そもそも、こんなことをしなくてはならないほどの悪意を、加害者が隠し持っていたこと自体に、被害者はゾッとさせられ、人間不信になります。

 

 下は、イルゴイエンヌの著書からの引用です。

 

モラル・ハラスメントによって生じる重篤な精神症状

 モラル・ハラスメントに特有の症状は、<正常な感覚が失われる>ということである。それはどうやったら相手を傷つけることができるか、というモラル・ハラスメントの方法と密接に結びついている。

 たとえば、その方法のひとつとして、<表面的な意味のほかに、裏に別の意味がこめられた言葉を使う>というのがあるが、そういったことをされると、私たちはその言葉をどう受け取っていいかわからず、途方に暮れてしまう。また、そんなことが続けば、精神的におかしくなってくる。実際、こういった二重の意味を持つ言葉が使われると、家庭の場合、言われたほうは統合失調症精神分裂病に追いこまれる可能性がある。また、職場においては、妄想症的な傾向が表れたり、ひどい場合には精神を破壊されてしまうこともある。・・・要するに、自分で自分の感覚が信じられなくなってしまうのだ。そうなったら、今度は加害者のほうからすれば、責任をなすりつけるのも、相手を無能呼ばわりするのも簡単である。・・・自分の感覚が信じられなくなって、自分はどうかしてしまったのではないかと思うほど恐ろしいことはない。そこで、誰かが「あなたはまちがっていない。まちがっているのは上司のほうだ」と言ってくれればいいが、誰もが何事もなかったような顔をしていたり、あるいは職場のなかに上司の尻馬に乗る人がいたりすると、「自分は本当に頭がおかしくなってしまったのではないか」という不安が募り、ついには相手のちょっとした言葉に過剰に反応して、直接的な暴力をふるうことにもなりかねない」(マリー=フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメントが人も社会もダメにする』, 紀伊國屋書店, 2003年, pp.233-235)。

 

 つまり、表裏で異なる二重の意味のあるコミュニケーションを行われると、被害者は混乱して、まともな思考ができなくなります。その状態で一方的な攻撃を受けます(加害者の方は、そのような仕方で自分が攻撃されない態勢を作っています)。被害者は、その場は何が起こっているのか分からないので反撃することも、身を守ることもできず、後で思い悩むようになります。慢性的な抑うつ状態に陥るだけでなく、人が信じられなくなり、妄想症になったりもしてしまいます。人は、正常な感覚を壊されている状態で、正常者が想像したり理解したりすることのできない悪意に晒されると、精神病(幻聴や妄想をともなう慢性幻覚精神病の症状)の症状すら呈するようになることがあります。また、こうした状態がその後のPTSD心的外傷後ストレス障害)をももたらします。

 

*1:このやり方は、ガスライティングにも似ていると思います。ガスライティングは、人に自分の正気を疑わせるような事(たとえば何かを隠すとか)をしておいた上で、「おまえは、少し頭がおかしい」とか言って、相手に何が正気か分からなくさせていき、本当の狂気に追い詰めるという心理的虐待です。モラハラ加害者が、絶対に自分が反撃されないように、自分の悪意を隠して被害者を攻撃する変質的なやり方は、被害者の正常な感覚を狂わせるという点で、ガスライティングと同様の構造をもっていると思います。モラル・ハラスメントにおいては、「<非難された人間が非難されたとおりの状態になっていく>という独特の経過をたどる」(イルゴイエンヌ, 前掲書, p.245)。