歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

自己愛性人格障害者は病院に行かず、被害者が病院に行く

潜在型の自己愛性人格障害の特徴

 クーパーとロニングスタムは、潜在型の自己愛性人格障害について次のように述べています。

 

 「これらの患者は皆、誇大的で自己顕示的な幻想をもち、自己満足が持続できなくなってしまうのではないかとの懸念から、他者との深い結びつきを保持できないという共通の特徴を持つが、表現型は異なっている。これらの患者は自己愛的活動の大部分を空想の中で行い、その空想を人に知られないように隠している。彼らの自己表現からは、はずかしがり屋でつつしみ深い人に見えるし、ときに深く共感的であるように見えることもあるが、他者に純粋な関心があるように見せたいという彼らの内気だが根強い願望を周りがそのように取り違えているだけである。しかし彼らは持続的な人間関係を維持することができず、自分の身近にいる人々を陰で中傷したり、羨んだりして、時に相当な業績を上げたとしても、自分のことを褒めることができない。彼らは外部からの賞賛のみに反応し、それさえも自分が詐欺的と感じてしまうので、長くは続かない」(ロニングスタム編『自己愛性の障害』, 金剛出版, p.68)。

 

 このタイプの自己愛性人格障害者は、「DSM-IV-TR に示されるような外向的で攻撃的、顕在的な側面の裏側にある、もっと複雑で防衛機制や抑制が効いた人たち」(町沢静夫自己愛性人格障害駿河台出版社, 2013, p.38)で、「日本人の患者特性をあらわすにも・・・きわめて重要なもの」(同書, 同頁)です。「患者自身も、自分の心的防衛の最終段階にある抑制的な行動しか目に入らず、自分のことを恥ずかしがりやで自己主張できない人間であり、当然受けるべきものも得られない性格であると考えているかもしれない」(同書, p.39)。「明らかにそのような態度(尊大で傲慢な行動または態度)が見えている人はいっそう他者から非難されてしまうということが容易に予想がつくので、かなり抑制されていると思われる」(同書, p.30)。良心によって、このような幻想は抑え込むべきだとされ、受け入れがたい願望を心に抱くことに対して罪の意識を感じなければならないと考えている(同書, pp.38-39)。

 

自己愛性人格障害 (21世紀カウンセリング叢書)

自己愛性人格障害 (21世紀カウンセリング叢書)

 

 

 上の本の紹介の画像にあるように、潜在型の自己愛性人格障害者は、仮面を被っているようなところがあります。

 

自己愛性人格障害はそれなりに上手く生きている

 自己愛性人格障害者は、それなりに生きる力を持っており、「ボーダーラインよりも生きていく基本的スタイルは高い」(町沢,  p.246)といえます。

自己愛性人格障害の人はそれなりにうまく生きていく。しかしボーダーラインの人は挫折の連続であり、その自己の統合はきわめて時間のかかるものである。・・・適応という側面から言えば、やや自己愛性人格障害のほうがボーダーラインよりも適応力を持っているというふうに考えてよいものである」(同書, pp.246-247)。*1

 

したがって自ら治療を受けない(治療を受けに来るのは、被害者のほう)

 「したがってこの点が、自己愛性人格障害者が自ら病院に来て治療を依頼することが少ないことの説明をする理由の一部だと思われる」(町沢, p.247)。

 「日本人の自己愛性人格障害者は、実際臨床症状は少ない」(同書, p.71)。

 「うつ病」(気分変調性障害、慢性軽症うつ病)で受診してくることが多い(同書, p.52, 53)。

 

 多くの自己愛性人格障害者が精神科を受診するのは、うつ病になった時です。*2 自己愛性人格障害者は、普段は自分がウツにならないように他人を攻撃しており、攻撃された人の方がウツになって精神科にかかります。

 

 潜在型の自己愛性人格障害は、顕在型に比べて「軽い」と言われますが、潜在型の道徳面での特徴として、「非行傾向」というのがあります。イルゴイエンヌも指摘していますが、<自己愛的な変質者>がモラル・ハラスメントを行なう時、法の目をかいくぐることを考えます。

 

参考文献

エルザ・F・ロニングスタム編『自己愛の障害―診断的、臨床的、経験的意義―』佐野信也監訳, 金剛出版, 2003年.

町沢静夫自己愛性人格障害駿河台出版社, 2013年.

ジェームス・F・マスターソン『自己愛と境界例―発達理論に基づく統合的アプローチ―』, 富山幸佑, 尾崎新訳, 星和書店, 1990年

マリー=フランス・イルゴイエンヌ,『モラル・ハラスメントが人も社会もダメにする』, 高野優訳, 紀伊國屋書店, 2003年.

岡田尊司『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか―』, PHP新書, 2004年. 

 

*1:境界例は体験から学ぶことができる」(マスターソン, p. 52)のに対して、自己愛性人格障害者は、そういうことがありません。

*2:自己愛性人格障害者が引きこもりになってしまうということは、あるようです。「引きこもりは、自己愛性パーソナリティ障害の随伴症状としても、重要である。自己愛性パーソナリティ障害に見られる引きこもりは、一つは、肥大した自己愛的理想と、現実の自分の間に、大きなギャップが生じることから起こる。自分が抱いている偉大な成功と、卑小な現実が釣り合わなくなったとき、ナルシシストは、自分の小さな世界に閉じこもることによって、失望したり、傷つくことから身を守るのである。また、自己愛性パーソナリティ障害の人は、周囲の人と摩擦が多くなり、あるいは、自分のプライドを守るために、身構え、神経をすり減らすため、知らず知らず対人関係を避けてしまうのだ」(岡田, p.117)。