歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

変質者の恋愛妄想〈自分は恋愛感情をもっていないが、相手は自分に深い恋愛感情をもっている〉

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  エロトマニア(被愛妄想)には、奇怪な特徴がいくつかあります。この妄想を抱く人の人格により多少のヴァリエーションがありますが、基本的には以下のような特異性が揃っているものです。誇大的で、願望充足的な妄想です。

 

1.ターゲットのほうから恋愛感情をもった、という妄想(妄想に、明確な始まりがあるとされる)。

2.自分がターゲットを愛するよりも、ターゲットのほうが深く自分を愛していると思い込む。

3.あるいは、ターゲットだけが恋愛感情をもっていると思い込む(自分の恋愛感情は否定する)。

4.ターゲットにされるのは、妄想者が理想化できる相手(社会的ステータスに惹かれてくることが多い)。

5.プラトニックな関係を愉しむ(〈秘められた関係〉として悦んでいたりする)。

6.ターゲットがいくら恋愛感情を否定しても、〈恋愛感情をもっている〉と解釈する(〈秘められた想い〉、〈恥らっている〉など)。

7.ターゲットの自分に対する嫌悪や忌避さえも、恋愛感情ゆえ(愛情の裏返し)だと解釈する。

8.根本に、病的なナルシシズムや思い上がりがある。

9.ターゲットにたとえ配偶者がいても、自分だけを真剣に愛していると思い込む。

10.ターゲットに近づきすぎないようにする(おそらく自己中心的な妄想が壊れるのを避けるため)。

11.ターゲットに嫌がられるようになると、ターゲットを貶め、憎悪を抱き、攻撃をはじめる。その際も、〈自分が愛されている〉という妄想は揺らがない。

12.永遠に壊れない妄想だとされる。

 

 いろいろ奇怪な特徴がありますが、明らかに病的で変質的なのは、太字で書いた3、6、7、11でしょう。このあたりが、エロトマニア妄想の異常な特異性を表わしていますが、実際にはすべての要素が互いに関係し合っています。

 

 自分の恋愛感情に無自覚であったり、否定したりする男性のエロトマニア妄想者は、完全に相手の女性の責任だと思っているので、性的な侵犯が無際限になることがあります。女性からの嫌悪や忌避を、強すぎる愛情の裏返しによる〈自分への嫌がらせ〉だと錯覚し、怒りを溜め込んでいきます。*1 そして、性的な侮辱や嫌がらせ、脅迫、誹謗中傷といった攻撃に転じていくことがあります(クレランボー症候群)。

 

 上にあげたのは古来指摘されてきている特徴で、「プラトニックな関係」というのも古典的なものですが、肉体関係を迫ってくるケースもあります。

 

 参考までに、精神医学的な定義の簡単なところを下に引用しておきます。

 

 

精神医学的な定義 

 エロトマニアの研究に長年を費やしたクレランボー(1872-1934年)は、次のような基本的公準を示していました。

 

恋愛感情を持ち始めたのは相手の方で、相手の方がより深く、あるいは相手だけが恋愛感情を持っている。(原注:古典的観念では、対象は通例では社会的地位が高い。

 

  エロトマニアは現在、DSM-5 に妄想障害のサブタイプとして記載されています。『現代精神医学事典』(弘文堂, 2011)の「恋愛妄想」の項では、次のように記載されています。

 

一般に「相手から愛される」という被愛の形式をとり、正確には被愛妄想と呼ぶべきである。願望充足的色彩を帯び、誇大的内容をもつ妄想といえるが、相手側から追い回される、調べられる、あるいは妨害されるなどの被害的傾向を帯びることがある。多くは女性に見られ、妄想対象としてはしばしば有名人*2、俳優、政治家など、本人が潜在的に憧れている異性が選ばれることが多い。単純なパラノイア型から、統合失調症の一症状として、また反応性の妄想発展としてみられるものなど多様な出現様式をもつ。

 

 正確な罹患率は不詳ですが、極めて珍しいものとされ、おそらく人口の0.025 ~ 0.03%とされます。

 

 非常に奇怪で異様な妄想なのですが、パラノイアの中心的な防衛機制である〈投影〉や病的な自己愛という観点から、かなりよく理解できます。

 

 クレランボー博士が定義した被愛妄想を、「クレランボー症候群」と言います。

 

 

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*1:ふつうの愛情では、好きな相手に〈嫌がらせ〉をすることなどあり得ないので、エロトマニア妄想者は、相手から病的に強い愛情を抱かれていると解釈します。おそらくこれも、エロトマニア妄想者自身の心情のあり方の〈投影〉です。そのうえで、エロトマニア妄想者には、実際に自分が嫌がられている不快感があるため、相手の事をいまいましく感じて怒るのです。

*2:対象は有名人だけということではありません。古い時代のヨーロッパでは、教会の司祭がよく対象にされました。エロトマニア妄想者によって理想化される社会的ステータスにある人物が、対象になりやすいとされます。