歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

外見上は正常者に見える妄想性障害者

一般的に妄想性障害者は外見的には正常者と変わらなく見えますDSM-5(アメリカ精神医学会による『精神障害の診断と統計マニュアル』)の「妄想性障害」には次のように記載されています。

「妄想の直接的な影響を除けば、心理社会的機能の障害は、統合失調症など他の精神病性障害にみられるものより局限しており、行動は目立って奇異であったり奇妙ではない(基準C)」(「診断的特徴」)。

 

「妄想性障害をもつ人によくみられる特徴の1つは、彼らが妄想的観念を口にしたり、それを行動に移すことがなければ、彼らの言動や外見は一見正常に見えるということである」(「妄想性障害の機能的結果」)。

 

また妄想性障害者には病識がなくDSM-5,「妄想性障害, 診断を支持する関連特徴」を参照)、当人が治療を求めて医療機関を訪れることは、あまりありません。「警官や家族、雇用者に伴われて来院することがほとんど常である」(ベンジャミン・J.サドック、バージニア・A.サドック、ペドロ・ルイ―ス編著『カプラン臨床精神医学テキスト: DSM-5診断基準の臨床への展開』第3版、井上令一 監修、メディカルサイエンスインターナショナル、2016年、p.374)。この病理を明らかにしてきたのは、主に司法精神医学であり、重大な犯罪における精神鑑定による詳細な分析が、妄想症の解明に歴史的に大きな役割を果たしてきました(安藤久美子, 岡田幸之「パラノイア / 妄想性障害と司法精神医学」, 『臨床精神医学』42 (1): 2013.1, pp.101-105)。恋愛妄想についても、その詳細で体系的な研究をまとめたのは、犯罪者たちの精神鑑定業務に医師としての人生の大半を費やしたクレランボーでした。


「妄想」というと、私たちは統合失調症の人たちが抱く、「悪の巨大組織から追われている」とか、「脳にチップを埋め込まれて、思考を盗み取られている」といった常軌を逸したものを思い浮かべがちです。しかし、妄想性障害者の妄想はそのような荒唐無稽なものではなく、現実に起こり得る内容のもので、事実と空想とが混淆して生々しいリアリティに満ちた物語を構築しています。

 

被害妄想にしても、被愛妄想にしても、やたらと他人を訴えて裁判を起こす好訴妄想にしても、妄想性障害者の攻撃というのは、普通は問題にならない些細なことか、事実無根なこと、あるいは事実を正反対に逆転させるようなことで、妄想のターゲットにしている相手を劣悪極まりない人間として非難し、侮辱し、中傷を撒き散らして、相手を打ち負かし、支配しようとしてくるものです。真面目に生きてきているつもりの被害者は、とつぜん悍ましい底なし沼の中に引きずりこまれて、泥まみれにされます。

 

妄想性障害者は、ひとによっては非常に狡猾で、自分の言い分を周囲の人たちに共有させることに長けています。裁判官や精神科医を騙すことも、めずらしくはありません。

 

妄想性障害者は自意識過剰で、他人からどう見えるか、他人から批判されたり攻撃されたりしないか、過剰なほど気にしています。なので、ひとから変に見られないように振る舞うことを知っていたりします。自分を善人に見せている人もいます。<妄想>というのは恐ろしいもので、妄想者は自分を<正義の人>だと心の底から確信しているので、自分がどんなに正しくて、相手がどんなに悪者か、真に迫っているところもあります

 

被害者は、少なくとも相手が妄想性障害という重度の精神障害をもっていることを理解しないと、自分の方が気を変にさせられます。