歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

夜中に性的行為を受けているという妄想<インキューバス症候群>

自分が愛されているという妄想であるエロトマニア(被愛妄想)の一種に、自分が夜中に性的な誘惑を受けているという妄想もあります。基本的にエロトマニア者は、自分が相手から恋愛感情をもたれ、誘われ、ストーキングされていると感じています。

 

色情狂(筆者注:エロトマニア)の一種である就眠女性強姦妄想(インキューバス症候群)の場合、病者は、夜更け、まだ見ぬ愛人から性的なお誘い、つまりセックスを強いられていると妄想している(ラシュカ、1979)。空想の愛人は自分に恋着していると信じるのが色情狂者の特徴である以上、その文脈においてストークされているという妄想が生じても、驚くにはあたるまい。(P. E.ミューレン  / M.パテ  / R.パーセル共著『ストーカーの心理―治療と問題の解決に向けて―』、サイエンス社、2003年、231頁)

 

夜中に自分がセックスを強いられているという妄想は男性にもありますし、相手が知人であることもあります。下に引用したケースは、単に「エロトマニア」として紹介されていましたが、この妄想がいかに恐ろしいものであるかを示しています。

 

ある二十三歳のエンジニアは、義姉が自分に夢中になっていて、夜中、彼が眠っているあいだにフェラチオをしていると思いこんでいた。彼は自分の怒りと攻撃的な感情を義姉に投影し、彼女が夜な夜なやってくるせいで性器に傷害が起こり、このままでは性不能症になってしまうにちがいないと考えた。なにも知らない義姉に、彼は何度か遠まわしにやめてくれと注意したが、やがて激怒して彼女に襲いかかり、片目をえぐりだした。彼は義姉が自分を性的に苦しめつづけたと主張し、刑務所に入ってからもそう信じていた。( D. オライオン『エロトマニア妄想症―女性精神科医のストーカー体験―』、長島水際訳、朝日新聞社、1999年、162-163頁)

 

この種の妄想は、妄想者が自己の劣悪性を認められないところから始まっています。

この男性には強い性的関心や欲求、それゆえの羞恥心や劣等感、病的に歪んだナルシシズムなどがあり、自分で処理しきれない性欲や、それにまつわる感情を、自分が意識している女性に投影していると思われます。

またこの男性には、毎日性的な行為に耽ることは何か身体に良くない、あるいは、それによってもう自分はダメになっている、といったような恐怖心のようなものもあるのでしょう。それでも、自分の性欲を抑えられない・・・そうした矛盾や葛藤があって、それが処理しきれなくなると、自分の中の恥ずべき劣悪な部分を他人に投影し、相手を攻撃することで、それが自分の問題であるということから目を逸らし、葛藤を解消しようとしていると解釈されます

おそらくこの男性は、事件後も自分の性欲や性的劣等感と戦わなくてはならなかったと思いますが、本人の中では「それは全部、義姉のせいだ」ということになっていて、自分が片目を抉り出した義姉に対する憎しみを募らせ続けていたのではないでしょうか。

もし妄想が解けて事実を受け入れたら、自分は人間として最低最悪の変態妄想男だということになりますから、それは死んでも認められないでしょう。

 

エロトマニア妄想者が抱え込んでいる心理的葛藤が異常なものになればなるほど、その葛藤を解消させる道具にされる人が受ける被害は、尋常ではないものになります。

 

このケースは一般に理解も想像も絶する異常な事件だと思われて、考察の対象にもされないかもしれませんが、ハラスメントの嫌な特徴が出ているとも言えます。つまり、異常な攻撃者は自分が抱えている心理的葛藤を、自分に納得ができる形で他人に解消させようとして攻撃してくるのです。