歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

カサンドラ症候群

パートナーにアスペルガー症候群が疑われる方は、ご夫婦の間で生じている問題が「カサンドラ症候群」なのかどうか判断できるよう、今回は精神科医岡田尊司氏の説に基づき、カサンドラ症候群について簡単に説明しておこうと思います。

 

 

 

診断基準

まず、マクシーン・アストンが提起した診断基準

www.maxineaston.co.uk

を要約すると、①パートナーの少なくとも一方が、アスペルガー症候群など共感性や情緒的表出の障害を抱えていること、②パートナーとの関係において、情緒的交流の乏しさや、激しい葛藤や不満、虐待などがみられること、③身心の不調があらわれていること、の三つになります(岡田尊司カサンドラ症候群―身近な人がアスペルガーだったら―』角川新書, 2018年, pp.29-30における岡田氏による要約)。

 

 

アスペルガー症候群の特徴

まず、アスペルガー症候群に見られる特徴は以下のとおりです(同書, pp.38-42)。怒りにつながりやすいのが(6)と(7)の特性なので、それについては捕捉的な説明も引用しておきます。


(1)自分に興味がある話を一方的にする。
(2)記憶力がよく、得意領域はめっぽう詳しい。
(3)過敏でこだわりが強い。
(4)聞き取りが弱く、相手の話が頭に入らない。
(5)同じことを繰り返すのを好む。
(6)想定外の事態にパニックになりやすい。
 急な予定変更や突発事に対してパニックになりやすく、うろたえたり怒りを爆発させたりする。ことに、二つ以上のトラブルやプレッシャーが重なったりすると、強いストレスを感じ、キャパシティオーバーになって混乱する。失敗したうえに、感情的な叱責を受けたりすると、パニックや怒りの反応を誘発しやすい。
(7)ルールや正確さにこだわり、白黒思考になりやすい。
 アスペルガーの人は、自分のやり方やルールしか受け入れられない傾向が強い。それに逆らおうとしたりすれば、強い反発が返ってくることになる。もっといい方法を教えようとしても、なかなか受け入れない。

アスペルガー・タイプの人は、自分の流儀でしか行動できない。一つの行動パターンに縛られる傾向が強いし、自分の考えしか見られないという特性がある。そこで、こうした方がいいとか、そんなことをするなんて、と余計なことを言われると、アドバイスになるどころか頭が混乱してしまうのだ。自分のやり方を否定されるとパニックになり、興奮し、怒りを爆発させる。そのやり方以外受け入れられないのだから仕方がない」(同書, pp.188-189)。

しかし、対立し合う夫婦の間では、

「ときには妻の方、かなり強迫的に、自分のこだわりに拘泥するところがあり、ごく些細なことまで問題視し、夫を異物扱いしてしまっている場合もある」(同書, p.191)。

 

 

アスペルガーとの見分けが難しい「回避型愛着」

しかし、自閉スペクトラム症の有病率は1%程度で、ごく軽度のものを含めても、一割程度です(同書, p.65)。氏は「夫のアスペルガーだけが問題というような単純化した理解は、実状ともそぐわないし、医学的に見てもあまり的確とは言えないだろう」(同書, p.132)と述べています。

岡田氏によれば、より多くの人々に該当する回避型愛着は、アスペルガーと見分けが難しく、カサンドラ症候群の原因になりやすいとのことです(同書, pp. 42-43; 65-67)。回避型には、情緒的で共感的な交流を避け、自分一人でできる活動を好む傾向があります(同書, p.66)。

「共感的応答をあまり求めようとしない代わりに、自分も相手に共感的な応答をしないというスタイルが回避型の神髄である」(同書, pp.67-68)。

 

 

カサンドラ症候群になりやすい「不安型愛着」

またその一方で、不安型の愛着スタイルをもつ女性は、カサンドラ症候群になりやすい傾向があります(同書, pp.56, 68, 99-101, 124-126, 132, 134)。「実際、カサンドラに陥った女性には、不安型の人が圧倒的に多い」(同書, p.43)。

カサンドラ症候群は、確かにパートナーの特性や障害によって生じる問題ではあるが、それが耐えがたい苦痛となってしまうのには、その人本人の特性もかかわっている。不安型愛着や、それに伴う二分法的認知があると、自分が依存している相手に過剰な期待をし、それが満たされないと、すべて否定して攻撃するというパターンに陥りやすい」(同書, pp.227-228)。

回避型と正反対の愛着スタイルである不安型には、自分を認めてほしいという思いが強烈に存在し、共感的応答を過剰なまでに求めようとする傾向があります(同書, p.68)。不安型の人は、過剰に愛情を求め、独占しようとします(同書, p.126)。

「怒りの反応は、愛情を取り戻そうとして起きているのであるが、皮肉なことに、どんどん関係を悪化させ、愛情を取り戻すどころか、相手も次第に嫌気がさしてくることになる。そうなると、より冷たい反応しか返ってこないので、いっそう怒りが増し、悪循環がさらにエスカレートする」(同書, p.100)。

とりわけ、回避型は人が困っているときほど助けにならなかったり、助けを求められると煩わしがったり、怒り出したりします。パートナーにとっては、困り切っているときに助けを拒否された衝撃が、深い傷となります(同書, p.107)。

 

 

誰にでも起こり得る<共感性の低下>

岡田氏は、要因を夫の共感性の乏しさという特性にのみ求めたところにカサンドラ症候群という概念の限界があり、真の問題解決を妨げてしまう面があると指摘しています(同書, p.242)。

平均的な共感性を備えている人でも、共感性の低下が起こることがあります。

「どんなに思いやりや共感性を備えた人でも、過重な責任やストレス、過労が加わって心の余裕がなくなると、思いやりのある態度を示せなくなることもある」(同書, p.239)。

「お互いがお互いの大変さを振り返り、思いやる余力をなくしているということが、その特性以上に困難を生んでいる」(同書, p.241)。

 

 

改善策

アスペルガーの人も、不安型(とらわれ型)の人も、全か無かの二分法的認知に陥りやすい。心に未解決な愛着の傷を抱えている場合には、それがさらに強まる。二分法的認知は、良い面があったとしても、自分を傷つけることや期待を裏切るようなことがあると、悪い面しか考えられなくなり、全否定してしまうのだ。・・・自分の課題にも向き合ってみようと思えるかどうかが、修復がうまくいくかだけでなく、これからの人生で、幸福を取り戻すことができるかにかかわってくる」(同書, p.226)。

岡田氏によれば、カサンドラ症候群を実際に解消するには、「相手の非ばかりを責め、全否定するという悪いパターンから、相手の良い点を認め、共感的な反応を増やし、お互いが安全基地になれる関わり方を目指す」必要があります(同書, p.227)。