妄想型セクハラ(疑似恋愛セクハラ)(1)
世間でセクハラ事件があると、しばしば聞かれる男性側の主張が「合意だった」というものです。
「向こうも自分に好意があって付き合っていたと思っていたのに、後からセクハラだと訴えられた。なぜこんなことがセクハラになるのか?」
妄想型セクハラを行ってきた男性は、相手の女性からセクハラで訴えられたとき、率直にそう感じるでしょう。「まさか、そんなはずはない」、「あんなにいい雰囲気だったのに」、「彼女の方でも積極的だったじゃないか」。
男性の方では恋愛のつもりだった場合、「まさか!?」という瞬間的な驚きの直後に、怒りや納得のいかなさ、面目をつぶされた気持ちや、親密だったはずの女性に裏切られたという思いなどが湧いてくるかもしれません。ところが女性の方は「しつこく交際を迫られた」、「上司だから断れなかった」、「性関係を強要された」と訴えています。男性は事実が捻じ曲げられたと感じて、それに抗議せずにはいられません。ハメられたように感じる男性もいます。しかし、女性の方では恋愛関係のもつれの結果、男性に無実の罪を着せようとしているのでもないし、誰かの陰謀に加担しているわけでもなく、本当に今まで耐えてきた性的嫌悪感からセクハラを訴えているのです。
牟田和恵著『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社新書)は、そうしたセクハラが起ってしまう構造を解き明かす良書です。男性の身になって書かれたもので、男性が加害者にならないように啓発を行っています。しかし、ひどい被害に遭った女性も、これを読んで救われる気持ちになるでしょう。事件の被害者にありがちなことですが、自分がなぜそれを避けられなかったか、なぜ相手に迎合するかのような態度を取ってしまったかと、自分自身を責めることもあるからです。
著者によれば、セクハラ防止のパンフレットやガイドラインに記載されているような行為を確信犯的に行うハラッサー(ハラスメントをする人)はめったにおらず、「合意の付き合いだった」、「彼女もその気だったはず」、「相手が嫌がっているとは思わなかった」、「まったく悪気はなかった」というケースが実に多いといいます。
グレーゾーンでのセクハラを女性が我慢していたことに気づかず、女性の批判にあった後の対応がまずくて、真っ黒のセクハラになってしまう例にも事欠かないようです。「鈍感はセクハラの免責にはならない」、「セクハラ男になりたくなければ、自分に見えていることだけが真実、と思い込むのではなく、何よりも相手の立場に立って、事態を見るよう努めましょう」と著者は述べます。この本で書かれているのは、男性からすると「見えないものを見る秘訣」です。
次回以降、要点を見ていきます。