どうすればDV・モラハラ加害者を変えられるか? / 危険性の判断の仕方
DV加害者専門カウンセラー、臨床スーパーバイザーで、米国マサチューセッツ州で1000人を超えるDV加害者に関わってきたランディ・バンクロフト氏は、次のように指摘しています。
彼を変えようと懸命になる道は、行き止まりへの道です。そうすることで、被害者は虐待の構造の中に囚われ続けてしまいます。(中略)
DV被害者が一緒にいてもよいと思えるまで、加害者が変化をめざして自分の問題に真剣に取り組むときというのは、被害者が加害者に対して、そして自分自身に対して「私は彼なしで生きられる」と証明したときだけなのです。そして、一度できたなら、加害者なしで生きる方がむしろよいと思うことでしょう。
(ランディ・バンクロフト著・高橋睦子、中島幸子、山口のり子監訳『DV・虐待加害者の実体を知る―あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』、明石書店、2008年、416-417頁。)
DV・モラハラ加害者が最も弱くなるのは、被害者が相手から精神的に自立した時です。つまり、相手がいなくても生きていけるという自信と意欲を持った時です。その時はじめて、このままでは相手を失うと感じて、変わろうとする加害者であれば、変わるということです。暴力をふるうケースなどで「彼が本当に悪かったと感じていたとしても、その後後悔だけで真剣になった(DV加害者プログラムの)参加者を私は見たことがありません」(前掲書、386頁)とバンクロフト氏は書いています。
自分にはとうてい相手を変えることはできないと認識し、これからは自分を大切にしようと決意したときこそ、去る決心のつくときかもしれない。
(マリー=フランス・イルゴイエンヌ『殴られる女たち―ドメスティック・バイオレンスの実態』、サンガ新書、2008年、238頁。)
たとえ失うものが多くて不本意だと感じることがあっても、何かを手放せば相手との縁も切れるようであれば、そうした方が後に幸せな人生が待っているかもしれません。
攻撃の激化
ただし問題は、加害者が最も不安定になるのは、被害者が精神的に加害者の支配下を脱しようとしている時だということです。この時、攻撃は最も激しいものになる可能性があります。既に離れて住んでいる場合は、加害者がストーカーとなることもあります。
一般的に、ストーカーは「死んでやる」と言っているうちはまだマシかもしれず、それでも思いどおりにならないと、相手を殺して自分も死ぬ人もいるわけですし、自殺騒ぎはどこかにいってしまって、相手の人生を破壊するための嫌がらせに手を尽くしてくるようになる人もいます。
どこまでの危険があるかについては、客観的なデータに頼るよりも、女性の直感が最も確かだと言われています(バンクロフト、前掲書、197-198、268、270頁)。
本当にお互いを必要としている場合
被害者がいったん、もう加害者をいらない、と思えるようになり、1年も別居したりした後、それなりの関係で落ち着くこともあります。
度を越したレミーの暴力に直面して、キャロルはやっとのことで文字通り逃亡をはかり、女友達の家に逃げ込んだ。(中略)
最初にかけてきた電話でレミーは「気まぐれはやめて、すぐに戻ってこい」と命令口調だったが、キャロルは従わなかった。余計なことは言わずに、「これまでの暮らしは耐えられるものではなかった」とだけ説明した。一週間後の電話でレミーは「出て行ってからもうすぐひと月になる。我慢の限界だ。もし戻らないなら、仕事をやめるぞ。オレが仕事をやめたら子供だちはどうなると思っているんだ」とすごんできた。脅し以外のなにものでもないと感じたキャロルは彼の態度に猛烈に怒り、決して帰るものかと決意を新たにした。
それからさらに数週間の時間を置いてかかってきた電話では、レミーの態度は慎重だった。
「きみのいない人生は考えられない。きみが変わったことは理解している。ふたりの関係や生活のルールも変えなくてはいけないね。心の準備ができたら、いつでも戻ってきてほしい」。
キャロルは二度と戻らないと決心していたものの、レミーが自分なしでは途方に暮れてしまうのだと思うと、いてもたってもいられなくなった。心の底では、彼のことが好きなのだ。そしてよくよく考えた末に、彼の申し出を受け入れることにした。ただし、「少しでも暴力を振るったら、今度の今度は決定的に終わり」という条件をはっきりと彼に示した。
本気で出て行こうとすれば実行に移せるキャロルの強い意思を感じ取ったレミーは、自分の不安定な感情をできるだけコントロールしようと真剣に努力を始めた。キャロルもまた、彼がイライラし始めたのがわかると、「がんばって、気持ちを鎮めなければだめよ」と、きっぱりとたしなめた。
以来、何かうまくいかないことがあるたび、キャロルが正直に口にすると、ふたりの間に話し合いの場が生まれた。
(イルゴイエンヌ、前掲書、235-237頁。)