歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

虐待された子どもは将来、加害者になるよりも、再び被害者になりやすい

児童期に虐待された人は、むしろ子育てに心を砕くようになる

 

 ジュディス・ハーマンによれば、子供の頃に虐待された人たちの圧倒的大多数は、一般に思い込まれている「虐待の世代間伝播」に反して、自分の子供を虐待したり、放置したりせずに、むしろ自分と同じ目に遭ったりしないように、心を砕いています。フィリップ・クーンズは次のような観察結果を述べています。

 

「一般に多重人格障害(児童期に酷い虐待を受けると多重人格障害になることがあります)を持つ母親たちがその子に向ける陽性(プラス)の、建設的な、いつくしむ態度に私は感銘を受けてきた。子どもの時に虐待されていた彼女たちは自分の子どもたちを同じような悲しい運命から守ろうと懸命になっているのである」(ハーマン, pp.178-179)。

 

 

虐待する側になるよりも、むしろ虐待される側になる傾向がある

 

 虐待されて育った人は、どちらかと言うと、他人を虐待するよりも、その後も自分が虐待される方にまわったり、自分を傷つけたりする傾向が強くなりがちです。

 

 特に女性は、他者の犠牲にされやすくなるか、自分を傷つける傾向が強まります(cf. ハーマン, p.177;  バンクロフト, p.290)。

 

「子供時代に良心から虐待を受けたり捨てられたりしたせいで、家族の愛情を知らずに育った女性たちは、自分には人から愛される資格がないとあきらめがちだ。また、自分は問題のある難しい男性しか愛せないと決め付けたり、ほんの少しの幸せを得るためにもあらゆることを断念したりしかねない」(イルゴイエンヌ, p.206)。

 

 

DV加害者の「可哀そうなエピソード」には脚色が多い

 

 一方、DV加害者たちが児童期に虐待されてきているかどうかについては、複数の研究から、関係性は薄いという結果が出てきています。

 DV加害者はしばしば自分が子供の頃に虐待を受けたと主張しますが、それは自分が人に暴力を振るう言い訳で、脚色された話であることも多いという指摘があります(バンクロフト, pp.48-51)。

 

 DV加害者は、自分が子ども時代に虐待されたと言えば、同情を買って、自分は優しくしてもらえたり、母親に対する恨みを装い、女性を虐待する言い訳にできたりします。

 

 

中には本当に虐待者になる人もいる

 

 児童期虐待を受けてきた男性は、他者への攻撃性を発動しやすくなる、ということもあり、ごく少数は、自分でも子供を虐待するようになるケースがあります(ハーマン, pp.177-178)。下は、重い児童期虐待を受けた男性の言葉です。

 

「私は十三歳か十四歳の時、もうたくさんだと思い定めました。私は反撃を開始しました。ほんとうに粗暴になりました。ある時ある女の子が私をからかいましたのでぶちのめしてやりました。銃を携帯しはじめました。私が捕まって少年院に送られたのは無許可の銃携帯のためです。男の子が反撃を開始し、非行少年となってしまうと、もう引き返し不能点を通り過ぎているのです。子どもが人生を駄目にしてしまわない前に家庭が地獄になっていることを皆がみつけてくれなければなりません! 調べてください! 鍵をかけて子どもを閉じ込めないで!」(ハーマン, p.178)。

 

 このような男性は、女性に対してかなり残忍な身体的暴力を振るったり、他の男性に対して暴力を振るったりします(cf. バンクロフト, p. 48)。

 

 

父親がDV加害者だと、男の子はそのやり方を身に付けてDV加害者になりやすい

 

 男性の場合、自分が虐められていなくても、父親がDV加害者であると、そのやり方を手本として身に付けて、女性に暴力を振るうようになりやすくなります(バンクロフト, pp.289-290, 380)。

 

「父親が母親を虐待する家庭で育った少年は、父親が何をしようと罰せられないことを長いこと目の当たりにして、父親の言動は社会的に許されるものというように解釈してしまいます」(バンクロフト, p.370)。

 

 つまり、DV加害者になるのは、自分が虐待されたからではなく、周囲の人たちのDV的なやり方を見て、それが利益になることを学んで身に付けているからだ、ということになります。

 

 

男女関係のモデルが間違っている

 

 両親の間の暴力を見て育った子どもは、将来DV加害者になるにしても、被害者になるにしても、まともな男女(夫婦)関係を知りません。両親の関係を見て、それが夫婦というものと思っています。

 そのため、被害者になる人(特に女性)は、支配的な相手と出会っても、普通の男女関係を知らないので受け入れてしまったりします。

 また、加害者になる人も、男女の間ではそれが当前のことだと思って、自分が支配し我儘放題にできないと不満に感じ、暴力的になります。

 

 

 両親の間でDVがある家庭の子どもが、将来、加害者にも被害者にもならないようにするためには

 

 これは私の考えですが、子どもにとって良い夫婦関係のモデルとなるように、仲の良い夫婦のあり方を間近で見せるのが一番良いかもしれません。そのような夫婦(家族)が身近にになければ、ドラマや映画、小説などでも良いと思います。

 

 

参考文献

ジュディス・L・ハーマン『心的外傷と回復』, 中井久夫訳, 小西聖子解説, みすず書房, 1996年.

マリー=フランス・イルゴイエンヌ『殴られる女たち―ドメスティック・バイオレンスの実態』, サンガ新書, 2008年.

ランディ・バンクロフト『DV・虐待加害者の実体を知る―あなた自身の人生を取り戻すためのガイド―』, 高橋睦子・中島幸子・山口のり子 [監訳], 明石書店, 2008年.