歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

夫婦間のモラハラ・チェックリスト(特徴と具体例)

 モラハラを行う<自己愛的な変質者>は、身近な人とすぐに権力争いをしようとします。その際、自分が相手から反撃されないように、相手に対する自分の<悪意>を隠蔽することが多く、被害者は相手と戦う気などまったくない間に、密かな攻撃を受け続ける、という話を前回致しました。そのようなやり方をされると、被害者はわけが分からず、まともにものを考えることができない状態に置かれ、罪悪感や劣等感を植え付けられ、心理的支配を受けていきます。*1

 

 イルゴイエンヌの著書(マリー=フランス・イルゴイエンヌ,『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない―』, 高野優訳, 紀伊國屋書店, 1999年)に紹介されていたケースをもとに、具体的にどんな言動が夫婦間のモラハラ(精神的な暴力)にあたるのか、まとめておきます。DV における心理的虐待と重なる部分もあると思います。

 

 イルゴイエンヌは1.支配の段階と、2.暴力の段階に分けて論じていますので、それぞれの段階におけるモラハラ特有のコミュニケーションと、具体例を列挙します。暴力の段階では、加害者の敵意は目に見える形になっていますが、問題はそれ以前に長期にわたる心理的な虐待が行なわれ、被害者がすっかり劣勢になった後での攻撃なので、破壊の威力が凄まじいことです。モラハラ加害者は、被害者が自分の支配を逃れようとすることを自分に対する<攻撃>と感じるので、<悪人を懲らしめる>つもりで復讐をします。

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

 

 

1.支配の段階

① コミュニケーションの特徴

  • 真実の情報を知らせないことによって、被害者を不安に陥れる。⇒ 被害者は何が起こっているのか理解できずに混乱し、加害者と戦うことができない。
  • 言いたいことをはっきり言わない。⇒ 具体的な問題点が示されないので、被害者は解決のしようがなく、身を守るすべがない。
  • 直接的なコミュニケーションを拒否する。⇒ 被害者の方は、言葉によるコミュニケーションができない世界にひきずりこまれる。(例:「駄目よ。これじゃ」→「どうしてです?」→「言わなくたってわかるでしょう?」→「わかりませんね」→「じゃあ、考えてごらんなさい」⇒ 被害者は「自分がどんな悪い事をしたのだろう?」と考え込む。)
  • 口調や態度などで、相手に対する否定感、軽蔑、嘲弄などを示す。
  • ほのめかしや当てこすり、冗談といった形の非難をする。(それがどういうことか説明しない。)⇒ 被害者の方は、それが攻撃であるかどうかも分からないまま、気分が悪くなる。
  • 何かを言いかけて、途中でやめる。⇒ ほのめかしの効果がある。
  • 人前で笑い者にする。
  • 他人の前で悪口を言う。
  • 釈明する機会を奪う。
  • 普通だったら口にしにくい相手の身体的な欠陥をからかう。
  • 問いただされると、自分の悪意を否認する。
  • 後で言い逃れができるような、曖昧な言い方をする。(相手が非難してきたら、言い逃れをし、逆に相手を責める。)
  • 言っていることと矛盾する態度を取る(例:言葉で言ったことを身ぶりや態度で否定する。あるいは、発言に言外の意味を持たせ、相手を攻撃しておきながら、そんなことは言わなかったと言外の意味の方を否定する)。
  • 矛盾することを言う(よく聞くと、支離滅裂)。
  • 不愉快な言葉で相手を傷つけるだけで、優しい言葉でその埋め合わせをしたりはしない。
  • 被害者が苦しみを訴えても、かえって嘲弄の対象にする。
  • 政治的な意見や趣味など、相手の考えを嘲弄し、確信を揺るがせる。
  • 相手の判断力や決定に疑いをさしはさむ。
  • 難しい言葉を使って、自分を偉く見せようとする。
  • 自分が非難されると、相手の言葉じりをとらえて話を逸らしたところから、相手を攻撃する。
  • 嘘をつく(主観的に事実を曲げた、妄想に近い。自分をよく見せようと思った時、あるいは相手の非難から自分のイメージを守ろうと思った時。あったことがないことになっていたり、なかったことがあったことになっていたりする。)
  • 絶えず誰かの悪口を言っている(羨ましいという気持ちから)。
  • 言葉ではなく行動によって悪意を示す(例:大きな音をたててドアを閉めたり、物を投げつけたりする。「何か怒っているの?」と聞かれても、「怒ってなんかいない」と否定する)。
  • 相手を認めない態度をとる(例:「おまえは駄目だ」と思わせることを繰り返し言って、相手の長所を認めない。相手を貶めることによって、自分が偉くなったと感じたいから)。⇒ 最後には被害者自身に駄目だと思わせ、本当に駄目な人間にしてしまう。
  • 不和の種を播く(例:「きみの態度は不快だったと、お兄さんが言っていたよ」などと暴露する。時には嘘をついてまで人を争わせる)。
  •  相手に罪悪感を持たせる。

 

② 具体例

  • 結婚後などに、感情的な部分で距離を取り、関心を示さなくなる。
  • 相手が説明を求めても、はぐらかす。
  • 不機嫌な顔をする。
  • 相手を利用して、感謝しない。
  • 責任を他人に擦り付ける。
  • 自分を被害者の立場に置く。(自分に同情させる。寛容な態度で接するように仕向ける、他人に自分への善意を要求する。)
  • 秘密をもつ。
  • 嘘をつく。(言葉ひとつで、実際にあったことがなかったことにされたり、なかったことがあったことにされたりする。)
  • 公的な場で距離を取る。(夫婦であることを認めない。)
  • 人前で優しい言葉をかけたり、愛情を示したりするのを拒否する。
  • セックスを拒否する。
  • 相手を貶める冗談などを言う。
  • 子どもに対するような仕方で注意する。
  • 相手の言葉や行動をいちいち辛辣に批評する。
  • 相手の言うことなどに対して、「くだらない」と言いたげな態度を取る。
  • 直接非難するのではなく、なにげない言葉を非難の口調で言う。
  • 相手を非難する意図、自分の相手に対する悪意、非難、敵意を否認する。
  • 侮蔑的なあだ名をつける。
  • 人前で嘲弄する。
  • 相手が少しでも抗議すると、相手の性格が悪いといった非難をする。(例:「ささいなことに対して恨みがましい」。)
  • 被害者が怒りや悲しみを表わすと、軽蔑して非難する。(例:「怒ってばかりいる攻撃的な人間だ」「そんなことくらいで傷つくなんて、どうかしている」「きみみたいに興奮しやすい女に何も返事をする必要はない」。)
  • (本当は自分の態度のせいで)相手が落ち込んだり不機嫌になっている顔を見るのを嫌がる。
  • 直接的なコミュニケーションを拒否する。(会話が成立しないので、同じところをぐるぐるまわりながら恐ろしい関係にはまっていく。)
  • 自分の考えを言わない。
  • 話し合おうとすると、言い争いになる。
  • 相手が存在しないかのようにふるまう。
  • 被害者が手紙を書いても、加害者は無視する。(破り捨てておくようなこともする。)
  • 相手を見ようともしない。
  • 何が気に入らないか、明言しない。(⇒ 相手は反論できない。)
  • 被害者が委縮して失敗をするようになると、加害者は非難や侮辱をする口実を得る。
  • 支配下におこうとする。
  • 経済的には自立していることを望みながら、服従させる。
  • 相手の反抗を許さない。
  • 相手の仕事の成功などに嫉妬する。
  • 相手の持ち物を隠すといった意地悪をして、悪意を示す。(例:口では知らないと言いながら、目には憎しみを宿らせている。⇒ 被害者は何の悪意か分からず、恐怖を覚える。)

 

以上のようなことが、執拗に繰り返されます。

 

2.暴力の段階

 被害者が加害者の支配を逃れようと抵抗するようになると、加害者の心に憎悪が湧きおこり、暴力の段階に入ります。

 

① コミュニケーションの特徴

  • 一方では話し合いを避け、他方で相手を傷つけようとする。
  • 徹底的に被害者の心を破壊しようとする。
  • 愛が憎しみに変わったのではなく(モラル・ハラスメントの加害者は、もともと人を愛することはない)、羨望が憎しみに変わっている(自分が羨んで望んだものが手に入らないと、相手を破壊し、消滅させたくなる)。
  • 自分の憎しみを正当化するのに、<被害者が自分を攻撃したからだ>という論法を使う。(正当防衛だという体裁を作る。)
  • <自分が攻撃されている>というのは被害妄想による。
  • 自分の<感情の投影>によって、自分のなかの憎しみを被害者のものとし、被害者が自分を憎んでいるのだと思い込む。
  • 相手に対する非難が始まると、以前のことまで引っ張り出してくる。
  • 被害者が何をしても間違っていて、起こったことはすべて被害者の責任になってしまう。
  • 肉体的な暴力には結びつかない。相手を挑発して自分に暴力をふるわせたり(そうすれば加害者は自己正当化できる)、相手を自殺に導くのが、加害者の本来のやり方。
  • 加害者は苛立ったり、感情を爆発させることはない。小さな嫌味や皮肉、侮蔑や嘲弄の言葉などを通じて、週に何度か、あるいは毎日のように、数ヶ月から数年にもわたって敵意を示す。(加害者の悪意に基づく攻撃性により、被害者がどれほど憔悴していても、暴力がふるわれたという証拠は残らない。)
  • 被害者が苦しみのあまり感情を爆発させると、それを抑えつけようとしてハラスメントをエスカレートさせる。
  • 起こったことの責任が被害者のほうにあるように見せる。
  • 加害者は被害者に「性格的な欠点(怒りっぽい、ヒステリー、抑うつ的など)がある」と言い立てて、被害者の自己イメージを悪くさせ、自信を失わせ、相手を貶め、批判する。⇒ 被害者が罪悪感をもつ。
  • たまりかねた被害者が暴力をふるったり、酒に逃げたり、自殺をはかったりすると、「性格に問題がある」とか「アル中だ」とか「自殺願望が強い」とかレッテルを貼る。こうして、被害者に「自分はつまらない人間だ」と思わせることに喜びを覚える。
  • 被害者は自分が本当に悪いことをしたかのように自己弁護しなければならなくなる。いっぽう加害者は被害者を辱めて喜ぶ。
  • 三者の前などでわざと挑発し、怒らせたり、暴力的にさせたりして、被害者が攻撃的な人間であるように見せる。
  • 挑発にのった被害者の方に責任が押しつけられる。
  • 被害者が自分もモラル・ハラスメント的な仕方で加害者に仕返しをするようになると、実質的に、どちらが被害者でどちらが加害者なのか、分からなくなってくる。加害者は被害者を堕落させ、<悪>に引きずり込み、加害者に仕立てあげることに成功する。
  • 被害者がどれほど悪い人間か強調し、まわりの人間にそう思わせることに力を注ぐ。
  • 被害者が、加害者にとっても被害者自身にとっても価値のある人間でなくなると、もう何も奪うことができないという理由で、加害者は被害者を<放り出す>。

 

② 具体例

  • 不倫を認めさせる。
  • 自分が不倫するようになった責任(自分の愛が冷めた責任)を、相手に押しつける。
  • 愛が冷めたことは態度で示されても、言葉では伝えられない。
  • 結婚生活が破綻したのは、相手(モラル・ハラスメントの被害者)のせいだという被害妄想に近い憎しみを抱く(加害者と被害者の立場の逆転が、加害者の心の中で起こる)。
  • 被害者から離婚を申し出た場合、被害者に道義的責任を負わせる。(例:「きみはぼくがお金を持っていないことを承知で、ぼくを外に放りだそうというのか?」⇒ 被害者に罪悪感をもたせようとする。)
  • 被害者の信用を失わせるような事態をつくりだす(被害者を挑発して、肉体的な暴力をふるわせることもある。第三者から見て、被害者の方が加害者に見えたり、被害者自身が罪悪感をもたされたりすることになる)。
  • その上で、被害者に「暴力的な人間」、「抑うつ症」といったレッテルを貼る。
  • 離婚した相手に、子供を利用して嫌がらせをする。(例:子供の前で愛人と仲良くして、子供にそれを伝えさせる。相手は離れたところにいるため、自分が非難を受ける心配はない。遠くから勝ち誇った笑みを浮かべて見せる。)
  • 家族や友人たちに、「頭がおかしい」、「暴力的だ」等、被害者の悪口を言いふらす。
  • 財産分割などで被害者に損害を与えた上で、正反対の嘘を言いふらす。
  • 子供に関する決定を行う際、返事をしない。被害者がひとりで決めるとそれを非難したり、提案に反対したりして、事態を進展させない。被害者が何もしなければ、無能だと言って非難する。
  • 加害者は妄想症(パラノイア)と非常に近い性格を示すこともあって、裁判に負けないよう、いろいろと必要な準備をしてくる。それに対して被害者は、モラル・ハラスメントの行為を証明しにくい。⇒ 加害者に有利な判決が下されることにつながる。どちらが本当の加害者で、どちらが本当の被害者か分かり難い。

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*1:モラハラ被害者の精神にとって有害なのは、加害者の悪意が隠蔽されていることにより、普通の人との普通の関係を前提としている被害者に錯覚が生じ、それにより被害者の正常な感覚が破壊されていくことです(⇒ 心理的操作)。