歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

変質的な異常者に対する恐怖感、および周囲から理解されづらい対処行動

旭川のいじめ事件については、「いじめ」というタームが私にはしっくりきません。大勢の加害者が「悪ふざけ」で嗤いながら行う、執拗な性的サディズムの行為は、被害者に最も深刻なレベルの心的外傷を与えて当然でしょう。

文春オンラインの記事によると、被害者の少女は、加害者の男子生徒から執拗に猥褻画像を要求され、送らなければ「ゴムなしでやるから」と脅されて自分の画像を送ってしまい、そこからグループ内での画像や動画の共有、「悪ふざけ」のための猥褻行為の強要、「画像を全校生徒に流す」といった脅迫、自殺の強要など、複数の加害者たちによる執拗な被害に遭いました。*1

 

ネット上では、加害者側の人間が立てているのではないかと疑われているスレッドに、「被害者が自分から画像を送ってきただけで、被害者が悪い」といった主張をしているものがありました。さすがに同調する人はいないようでしたが、加害者はそのような事を言って被害者を追い詰めただろうと推測できます。

 

加害少年からの脅しがあったということで、被害者の少女が画像を送った理由は比較的分かりやすいかもしれませんが、この時点で、被害者はかなり追い詰められていたということでしょう。一般に、被害者がおかしな言動をとることには、それ相当の理由があるものです。下で説明しますが、人間が恐怖を感じるのは、必ずしもあからさまな暴力や罵倒、脅迫などではなく、もっと言うに言えない種類のものです。

 

そして、諸々の悪質なハラスメントや暴力において、被害者が身を守ろうとして行った対処行動が第三者には不可解だったり、被害者自身の落ち度に見えるものだったりして、加害者がそこに付け込み、被害者は弱みを握られるかのようになって、ますます壮絶な被害に巻き込まれていくというのは、一つのパターンと言って良いと思います

 

たとえばセクハラでも、被害者が恐怖のあまり、相手におもねって喜ばせようとするメールを出していたり、プレゼントをしていたりすることがありますが、そうした言動は第三者からは理解されません。

 

以下は、旭川の事件そのものは離れ、悪質な事件にありがちかと思われる事を述べていきます。

 

 

異常者に対しては、被害者の対応も異常なものになる

 

加害者が正常者である場合、被害者が取る防衛手段は、常識的なもので十分です。嫌なら「嫌だ」と伝えて、それでも済まない場合はしかるべき機関に訴えます。

 

ところが加害者が異常者である場合、被害者が取る防衛手段は第三者が常識的に見て、<奇異なもの>となります。変質的な異常者になればなるほど、被害者が逃げたり、抵抗したりしないように、ありとあらゆる工夫を凝らしてきますので、被害者も普通の仕方では逃げたり抵抗したりできません。それで、言動が<奇異なもの>になってしまいます。

 

そして、被害者自身も、自分が取っている行動が一種異様なもので、他人から理解されないものであることを感じます。なんで自分がそんな風にしなければならなくなっているのか、自分でも分からなかったり、まして説明などできなかったり、ということになると、かなり最悪です。

 

 

恐怖心を引き起こすもの

 

被害者に恐怖心を起こさせるものは、必ずしも暴力や罵声ではありません。警察に行けばすぐに逮捕してもらえるような、あからさまな脅迫ともかぎりません。人間のコミュニケーションというのは、言葉だけではなく、目つきやしぐさによっても行われており、たとえ無言であっても、被害者に加害者の意図が伝わる場合があります。

 

そして、人間が非常な恐怖を感じるのは、ある言動が発せられる脈絡です。予想される場面で、想定の範囲内のことが起こっている分には、さほど恐くはありません。

しかし、普通はあり得ないタイミングや脈絡で、常識を大きく逸脱する言動を行われると、たとえちょっとした仄めかしや、婉曲な言い回しであっても、それが何らかの攻撃性や嗜虐性、変態性から発している場合、それに接した人は凍り付くような恐怖を感じます。「異常者らしい」ということが直観的に判断されるからです。

 

必ずしも「異常者」レベルでなくても、たとえば最近話題になっていたことの中に、小室圭氏が母親の元婚約者からの婚約解消の話があった際に、お金の話が出た瞬間に咄嗟に録音したという話がありました。元婚約者の方も、トラブルになった後では録音をしていたようでしたが、<トラブルになっているから録音する>というのは正常な脈絡です。しかし、対立関係が生じる以前に<咄嗟に録音する男>には、人は恐怖を感じます。

 

本物の異常者になればなるほど、聞いたこともなく、言葉にもならないような気持ち悪いことが、ギョッとするタイミングで起こります。相手が常軌を逸していて、得体が知れないと、どこまで何をされるか分からないので、気味が悪くなります。明確に何を怖れて、何に対処すれば良いのか分からない場合、恐怖心の及ぶ範囲が無限大に広がっていくのです。逆に正体が分かれば、恐怖心は限定されたものになります。

たとえば恐怖映画などでも、お化けや怪獣がこれでもかと暴れているシーンよりも、最初の異様な兆候に、観ている人たちは恐怖を感じます。

 

このように、人を恐怖に駆り立てるのは、必ずしも目に見える暴力や暴言とはかぎらないのですが、残念ながら、目に見える攻撃がない場合、第三者からは被害者の恐怖心は理解されませんし、被害者自身、うまく説明できないことも多いでしょう。

 

 

被害者の方が変に見えるし、被害者自身も自分を責める

 

上で述べたように、狡猾で変質的な異常者に絡まれた被害者は、説明しにくいところで恐怖を感じ、説明しにくい対処行動を取ってしまいます。 

 

そして傍からは、被害者の方が被害妄想的な怖がりに見えるかもしれませんし、被害者の対処行動(たとえば相手を喜ばせるような言動など)も常識的に見て<奇異なもの>で、理解しにくいものでしょう。また被害者のそうした必死の努力にもかかわらず、結果的に事件に発展した場合、被害者自身も「自分が怖がり過ぎたのがいけなかったのではないか?」と感じてしまうでしょう。

 

さらに、被害が防げなかった場合、大概は加害者からの攻撃がエスカレートしているはずですし、邪悪な加害者は被害者が自己防衛のために行った<奇異な>言動を逆手に取って、更なる攻撃材料にしてきます被害者はまるで、自分の弱みを握られたような形になります。

 

加害者は、被害者の言動が他人から理解されないものであることを知っています。被害者は自分でも、被害に遭ったことを自分の落ち度や恥として感じ、孤立していきます。被害を口にできなくなるか、他人に知られた場合、自分が非難されるのを覚悟しなくてはならなくなります。実際、心無い人たちからは、被害者が非難されます。

 

これが、狡猾で変質的な異常者に目を付けられ、最悪の被害を受けるようになる、一つのパターンだと思います。

 

 

まとめ

 

① 一般に、変質的な異常者が相手を逃すまいとしてきている場合、決して一筋縄ではいきません。被害者は何らかのタイミングで、相手の異常性に気づき、恐怖を覚えます。常軌を逸した相手に対する対処行動は、通常の人間関係では決して見られることがない奇異な言動にならざるを得ず、加害者の異常性を生身で感じていない第三者からは、被害者の方が変な人に見えます。被害者自身、「なんとなく怖かったから」としか説明できないことも多いでしょう。

 

② そして加害者は、傍からは奇異に見える被害者のリアクションを、被害者の弱点として悪用し、被害者をさらに追い詰める材料にしてきます。被害者は他ならぬ自分自身が取った行動を恥じなくてはならなくなり、被害を口にできなくなり、加害者との関係性の中に閉じ込められます。あるいは被害が他者に知られた時、被害者の方が誤解されたり非難されたりして、孤立しかねません。

 

セクハラでもレイプでもDVでもモラハラでも、傍から見て「一体なんで被害者がそんな事をしているのか?」と疑問に思われるようなケースでは、この種の事が起こっている可能性があります。

 

 

この場合の被害者が立ち直るには?

 

酷い被害に遭った人は、自分を「バカだった」と思いがちです。加害者が自分の罪を軽くしたり、自己正当化したりしようとするため、被害者自身にも自分が悪いと思わせるように仕向けている、ということもあります。

 

被害者が精神的に立ち直るには、自分が取った対処行動が、たとえ結果的により悪質な攻撃を誘発していても、それが自分の「落ち度」ではなかったということを知ることが必要です。ここが、正常な感覚を取り戻す第一歩になります。

 

相手が変質的な異常者である場合、被害者は常識を知らないバカだから被害に遭ったのではありません。むしろ常識で判断したから被害に遭ったのです。常識が通用しなかったから被害に遭ったのであり、常識が通用しない人間だから、その相手は「異常者」なのです。

 

*1:「1人の生徒が笑いながら、『今までのことをまだ知らない人に話すから。画像をもっと全校生徒に流すから』などと爽彩に言ったそうです。『やめてください』と爽彩がお願いしたら『死ね』と言われたと……。『わかりました。じゃあ死ぬから画像を消してください』と爽彩は答えたそうです。しかし、別の生徒が『死ぬ気もねぇのに死ぬとか言うなよ』と煽った」(文春オンラインより)。目撃者の証言によると、爽彩さんが川に飛び込んだとき、加害者たちが皆、携帯カメラを向けていたそうです。

「イジメの発覚を恐れた加害少年らは、のちに駆け付けた警察に対し、『この子はお母さんから虐待を受けていて、虐待がつらいから死にたくて飛び込んだ』と虚偽の説明」(文春オンラインより)。

「捜査終了後、警察を通して、爽彩の画像や動画のデータは加害者のスマホからすべて削除させたのですが、翌日に加害者のひとりがパソコンのバックアップからデータを戻して加害者たちのチャットグループに再び拡散。その後、警察がパソコンのデータを含め拡散した画像をすべて消去させても、データを保管したアプリからまた別の加害者が画像を流出させたりと、その後もわいせつ画像の流出が続きました」(文春オンラインより)。