DV加害者は外づらがよい
ランディ・バンクロフト『DV・虐待加害者の実体を知る ― あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』(明石書店, 2008年)は、DVの実態やDV加害者の正体を知るための良書です。本の装丁からして優しくて、癒されるようですね。DVのからくりさえ分かれば、被害者はもう騙されなくて済みます。
著者は、DV加害者プログラムを実施しているカウンセラーですが、被害に遭っている女性とも1,2週間ごとに1回は面接をしているそうです。DV加害者は自分の言動を否認したり、矮小化したり、問題を相手の女性のせいにしたりするので、虐待されている女性の話を注意深く聞かなければ、男女間の虐待関係において、何が起こっているのかを知ることは、きわめて難しいと指摘しています。
被害者が周囲の人々からの理解や助けを得にくい一つの理由が、加害者の外づらのよさです。
(DV加害者は)相手の女性に対して力を使って支配することにひきつけられているので、支配するための手口の一つとして外ではよい顔をいせるのです。相手の女性は、暴力を訴えても彼の評判がいいのでなかなか信じてもらえなかったり、責められたりするのではないかと心配になり、支援や援助を求めることをためらいます。・・・外からみている人たちはこう思うのです。『彼は本当にいい人なんです。虐待をするようなタイプではありません。彼女が彼を傷つけたからですよ、きっと』
いい人という表向きの顔のおかげで、DV加害者はよい気分になります。加害者の一人は私によくこう言います。『彼女以外の人たちとは問題なく付き合っていますよ。まわりの人たちに僕がどんな人間か聞いてみたらわかります。落ち着いた道理をわきまえた人間です。キレるのは彼女の方だって、みんなわかっています』。それど同時に、彼女が人付き合いで抱えている悩みを――それらの多くはその男性のせいなのですが――彼女の方に問題があるということをさらに証明するものとして利用します。」(前掲書, pp.101-102)
DV加害者は、家庭の中ではわがままで自己中心的で、怒っているけれど、外では穏やかで笑顔で、気前がよく、親切だったりします。家庭では女性に否定的なことを言うけれど、人前では男女平等を支持するようなことを言います(cf. pp.100-101)。
著者のバンクロフトによれば、DV加害者のうち自己愛性人格障害や境界性人格障害といった精神的な症状をもっている人は、ごく一部(12人に1人ぐらい)だそうです。その見分け方は、家庭の外で他の人たちにも同じことをしているかどうかです。
ただし、バンクロフトは言及していないようですが、自己愛性人格障害者の場合も、「潜在型」とか「過敏型」とか言われるタイプの人は、他人の反応を過剰に気にして自己主張を抑制し、良く思われるように振る舞いますので、被害に遭っている当事者以外には、まったくの善人に見えていたりします。