歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

DV・モラハラ加害者の10タイプ

アメリカのDV加害者専門カウンセラーであるバンクロフトは、DV加害者を10タイプに分類しています。

 

今回は、ランディ・バンクロフト著『DV・虐待加害者の実体を知る: あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』(高橋睦子・中島幸子・山口のり子監訳, 明石書店, 2008年)110-142頁の内容をまとめたものになります。

多少、筆者自身の要約や補足を加えています。

 

これは身体的暴力を振るわない加害者、つまりいわゆる「モラハラ」加害者にも当てはまります。

 

なお、同一のDV加害者に複数のタイプがまじりあっている場合があります。

 

1.「過剰要求男」タイプ

 

自己中心的な要求が過剰なタイプです。

・このタイプの男性は女性を頻繁に批判します。

・たいてい相手が自分に対してすべきことをしなかったとか、あるいはもっと上手くすべきだったというのが理由です。

・その一方で、自分が何かを要求されると、相手を要求がましいと思って怒ります。

 

 

2.「最高権威男」タイプ

 

相手を見下し、自分が知的に優れていると思い、いつも自分の考えを押し付けるタイプです。

・被害者よりも物事をよく知っているし、被害者にとって何が最善であるかも、被害者自身よりよく知っていると思っています。

・相手に自分の知的能力を疑わせて、うまくコントロールしようとしています。

・相手がどうしても自分の考えをもとうとしたら、必ず後悔させようとして、何らかの手を使います。

 

 

3.「水攻め男」タイプ

 

・このタイプの加害者は、自分は感情的にならず、冷酷で情け容赦のない意地悪をします。

・これは私自身が見るところ、イルゴイエンヌの言う「モラル・ハラスメント」加害者とまさに同じタイプです*1

・人前で被害者をバカげた人間に見せかけて、意地悪く嘲弄したりします。

・被害者の方が感情を爆発させてしまうと、加害者は相手の方が「暴力的だ」とか「理性がない」と言ってバカにして非難します。

・被害者は加害者からされていることをどう説明してよいか分からず、自分の中に不満を溜め込んでいったり、自分の方に問題があると思ってしまったりします。

・加害者は自分の行動には何も問題がないと心から信じ込んでいます。

・被害者は家族や友人に相談しても、加害者の味方になるかもしれません。

・被害者の方が、大したことでもないのに感情的になっているように見えてしまうからです。

・このタイプの加害者にあう被害者の心には、深刻な悪影響が及びます。

 

 

4.「鬼軍曹」タイプ

 

・相手の女性の生活を全面的に管理しようとするタイプです。

異常なほど嫉妬深いことがよくあります。

・このタイプの虐待をする人は、大抵、自分の方が外で不倫をしています。

・遅かれ早かれ、このタイプはほぼ確実に身体的暴力を振るうようになります。

・被害者が自分の自由や権利を守ろうとして加害者に立ち向かうと、暴力や脅しがエスカレートしていきます。

・重症を負わせるほどの暴力を振るう危険性があります。

・性的にとても下劣な傾向があります。

・精神的な問題を抱えているケースがよくあります。

・嫉妬妄想などがあるかもしれません(筆者による補足)。

 

 

5.「繊細そうな男」タイプ

 

・優しく、繊細そうで、少なくとも口では非暴力を唱えたり、女性差別に反対しているような顔を見せたりします。

被害者は、自分がいつも加害者の感情を傷つけているように感じますが、その理由が分かりません。

・このタイプの加害者は、被害者の態度を装います(筆者による補足)。

・自分の暴力行為を、自分が傷つけられたから仕方なかったとして、被害者のせいにします。

・自分がいかに傷つきやすい人間であるかを誇張して、自分の攻撃性を隠し、自分は相手から嫌な思いをしないように、相手からの気配りを要求します。

・自分が被害者の心を傷つけた場合は、説教などをして(「感情は流せ。あまり引きずるな」等)、簡単に片づけたがります。

・非常に自己中心的で、自分の感情を何よりも大事にします。

 

 

6.「プレイボーイ」タイプ

 

多くの相手と不貞を繰り返すタイプです。

・女性を利用して、自分が性的魅力のある人間だと感じることから、人生における悦びの多くを得ています。

・付き合い始めた頃は、被害者に首ったけのように見えるし、セックスも上手でしょう。

・しかししばらくすると、被害者に対してセックス以外は興味を示さなくなり、性的エネルギーの低下すら感じさせるようになります。

・そして、ウェイトレスや店員や被害者の友人の気まで引こうとするようになります。

・自分の魅力に自信のない女性を、常に一人か二人つなぎ止めています。

・時間がたつにつれて、被害者のことを気にかけなくなったり、ほとんど無視して話もしなくなったりします。

・無責任で、相手の女性の感情に鈍感で、言葉の暴力も使います。

・不貞を問い詰められたり、見つかったりすると、突如虐待がエスカレートします。

・それをきっかけに、身体的暴力を振るうようになることもあるでしょう。自分の浮気をあばいたという理由で暴力を振るいます。

・見境のない性行動は、女性を遊びの対象としてしかみていないということの表れです。

・このタイプの男性はセックス依存症なのではなく、女性を利用してスリルを楽しむことがやめられないのです。

 

 

7.「ランボー」タイプ

 

被害者に対してだけでなく、誰に対しても攻撃的で暴力的です。

・人を怖がらせる感覚にスリルを感じています。

・育った家庭や地域で、自分が暴力を振るわれた経験のある人が多いでしょう。

・暴行、窃盗、飲酒運転、薬物取引の犯罪歴があることも多いです。

・強くて攻撃的なのを良いことだと考えています。

・単なる「たくましい男」のではなく、女性を軽蔑し、優越感を抱いており、男性は女性を従わせなければならないと考えています。

サイコパス(精神病質者)やソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)といった、反社会的な人格であることもあり、その場合は心理的虐待や身体的虐待が一層ひどくなります。(10.「精神疾患あるいは依存症をもつ男」タイプを参照。)

 

 

8.「被害者男」タイプ

 

被害者意識が強いタイプです。

・何かと他人のせいにします。

・話を聞くと、いつも能力を認めてもらえなかったり、信じていた人たちに裏切られたり、善意を理解してもらえなかったりしています。

・上司や近所の人たち、友人たち、道行く見知らぬ人たち等からも不当に扱われていると主張することがあります。

・すべての人たちから不当に扱われているが、自分には何も悪いところはないと信じています。

・非常に自己中心的な関係の持ち方をし、すべてが彼の心の傷を中心として展開し、いつでも自分を注目の的にしようとします。

・過去のパートナーからも酷い目にあったと、まことしやかに話すので、新しいパートナーはそれを信じてしまいます。

・このタイプにおいては、物事を正反対にねじ曲げ、現実をあべこべにしてしまう性質が、DV行動の主な原因となっています。

・被害者から分かれた場合、裁判所へ自ら出向き、自分が被害者だと主張して親権を得ようとするおそれがあります。
・やたらと投影してきて、妄想的だという点で、心理的に厄介な問題に巻き込まれるので、結構恐いです(筆者による補足)。

・「パートナーから何かされたと思ったら、仕返しをするのは道理にかなっている」と考えています。

・そして、相手に思い知らせるためには、かなりひどい仕返しをするのも正当な行為だと考えています。

 

 

9.「テロリスト」タイプ

 

・他のタイプの加害者と異なり、サディストであることが多く、相手に痛みや恐怖を与えることに快感を覚え、残虐な行為にスリルを感じているようです。

・他のタイプの加害者の多くと異なり、子供時代にひどい虐待を受けている可能性が高いです。

・破壊的な性質が複雑に絡み合っています。

・必ずしも身体的暴力を振るわなくても、脅迫や奇妙な言い回しや奇怪な行動によって相手を怖がらせることを知っていたりします。(例:夫に殺害された女性の記事を切り抜いて、冷蔵庫に貼る。別れ話を切り出されて、動物の血を玄関先にまき散らす。苛立つと拳銃を出してきて磨き出す、など。)

・このタイプの中には、本当に相手を殺す人もいます。

・被害者が逃げた後も、ストーカー行為や脅迫行為に出ることがあります。

 

 

10.「精神疾患あるいは依存症をもつ男」タイプ

 

以上の9タイプのいずれも、精神的な問題や依存症(アルコール依存症や薬物依存症など)の問題を抱えていることがあり得ます。

精神疾患や依存症自体が虐待の原因だということはありませんが、虐待を深刻化させたり、暴力の危険性を高めている場合があります。

・つまり、精神疾患などが完治しても、虐待がなくなるとはかぎりません。

・加害者は虐待を依存症や精神疾患のせいにする傾向があります。

精神疾患の症状は軽くても、虐待の程度は激しい場合があります。

・身体的暴力を振るう可能性を高める精神疾患としては、パラノイア(妄想症)、深刻なうつ病、幻覚(精神病)、強迫神経症、反社会性パーソナリティ障害(あるいは精神病質)などがあり、加害者がこれらの精神疾患をもっている場合は、変わることは不可能に近いでしょう。

・反社会性パーソナリティ障害は、加害者のほんの数パーセントにしかみられませんが、重要な要素です。良心が欠けているので、他の人にも加害行為を繰り返します。

 次の点が、この障害があることの特徴です。十代の頃から違法行為をしている。DVの被害者以外の人たちに対しても、不正行為や暴力行為を行う。職場やその他の場所で、盗みや脅迫、指示に背くといった問題をたびたび起こす。大部分が軽いものかもしれないが、30歳までに相当な犯罪歴をもっているかもしれない、等。

・自己愛性パーソナリティ障害をもつ人は、非常に歪んだ自己イメージをもっています。

 次の点が、この障害があることの特徴です。DVの被害者以外の人たちとの関係においても、自己中心的な行動をする。何事も自分に関連があると考える。誰かに批判されると大変怒る、等。

 

 

「テロリスト」と「鬼軍曹」はとくに危険な暴力を振るう可能性が高いタイプですが、どのタイプの人も性暴力を含めて、身体的暴力を振るう恐れがあります。

 

加害者の多くが、被害者に対する力や支配が弱まってしまったと感じたときに、攻撃をエスカレートさせ、身体的暴力を振るったり威圧してきたりします。

心理的虐待だけでは効き目が足りないと感じたときに、奥の手を使うようにして身体的暴力を振るう可能性があります。

 

 

*1:イルゴイエンヌによれば、モラル・ハラスメントの加害者は「ただ冷淡で意地悪」(マリー=フランス・イルゴイエンヌ, 『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない―』, 高野優訳, 紀伊國屋書店, 1999年, p.19)です。「加害者が苛立ったり、感情を爆発させたりする時に敵意が現われるのではない。[…] それは怒りの口調においてではなく、明白な事実を述べるかのような冷たい口調で表現される」(p. 202)とイルゴイエンヌは書いています。

 バンクロフトは、「水攻め男」タイプのDV加害者について次のように書いています。

「水攻め男」の手口は、怒りが虐待の原因でないことを証明しています。声をあげもせずに相手を心理的に攻撃してしまうからです。口ゲンカになると冷静さを保ち、自分の平静さを武器にして相手の正気を失わせます。偉そうな、あるいは軽蔑したような薄笑いを浮かべ、自信ありげな物怖じしない雰囲気を漂わせます。[...] 「最高権威男」と同じように、相手の女性が言った言葉を、もともとの意味がまったくわからなくなってしまうほどねじ曲げて、とくに他の人たちの前で、彼女がバカげていると見せかけようとする傾向があります。[...] 「水攻め男」の静かなあざけりと意地の悪さには情け容赦がありません。こういった巧妙な手口を使われると、女性は頭に血が上るほど怒りを感じるか、自分が愚かだと感じたり劣等感をもったりするか、あるいはこの両方が混ざった反応を示します。[...] 「水攻め男」はこう言います。「ほらみろ、暴力的なのは僕じゃなくて君の方だよ。怒鳴ったりして、理性的に話し合って解決しようとしないのは君の方だ」(バンクロフト, 前掲書, pp. 118-119)。