歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

妄想型セクハラ(3)女性が「ノー」と言えない心理

 「嫌ならなぜそのときに言ってくれなかったのか」――これがセクハラで訴えられた男性側からよく聞くセリフだと牟田和恵氏は言います。男性からのアプローチにまんざらでもないように見えていた女性が、後で「交際を強要された」と訴える。「ハメられたようなものだ」と、被害者意識を抱く男性もいるといいます。

 

 しかし女性にしてみたら、全く付き合う気がない相手でも「あんたなんかキモい」と言って嫌悪感を顕わにすることは通常ありえません。まして、相手は職場の上司です。

 

 一般的に、加害者に面と向かって「ノー」と言えるセクハラ被害者は、どちらかと言うと少ないと言われます。多くは、無視することで拒否の意図を伝えようとします。女性の方で、相手の男性のメンツを潰さないように気配りをしている場合もあります。気まずくなったり、余計なトラブルになったりすることを避けたいからです。だから無視して終わりにさせようとします。職場の人間関係のように、トラブルを起こしたくない場所では、なおさらそうです。相手に恥をかかせないようにするのを、人間関係のマナーとして身に付けている女性も多く、礼儀や品性を重んじる女性ほど、そうした傾向が強いでしょう。

 

 男女交際の基本的な常識というのは(とくに女性の場合)、交際を求める相手あるいは恋人に対するときでさえ、それとなくほのめかして拒否の意志を示すことなのである。

 

 「こういう場合、断る側は一般に罪の意識を感じていますし、相手を傷つけないで『ノー』という方法を知らない。そこでもっともふつうなのが、じっとやり過ごして、親切な態度を続けて、そしてほとぼりが冷めるまで待つのです。相手のお熱が冷めるのを願いならね。いわば暗黙の了解というわけです。片方はおおっぴらに断りを言いたくないし、もう片方はそれを聞きたくないというわけなんです」(ケース・ウェスタン・リバース大学心理学教授、ロイ・バオマイスター博士)(リンデン・グロス著、秋岡史訳『ストーカー ゆがんだ愛のかたち』, p.132)。

 

 アメリカのセクハラ問題のパイオニアであるフェミニスト法学者キャサリン・マッキノンも、「なぜ女性はっきりとノーと言わないのか」という問題について、次のような指摘をしています。

 

 「女性の最も普通の対応は、起きたこと全体を無視するように努めつつ、見かけは喜んでいるように見せて巧みに男性の面子を立ててやり、それで男性が満足して止めてくれるだろうと期待する、というものである」(キャサリン・マッキノン著、村山淳彦訳『セクシャル・ハラスメント オブ ワーキング・ウィメン』こうち書房、1999年、93頁)。

 

 愛想よく無視するのは、OKという意味ではなく、「ノー」の意思表示なのです。はっきりとした「イエス」ではない曖昧な沈黙は、OKではなく「ノー」のサインです。男性も、後々気まずくなるようなことを避けようとするなら、その段階での相手の意図をくみ取るべきでしょう。あからさまな抵抗をしないというのは、相手のことを配慮し、ことを荒立てずに無難に収めようとする女性の努力のあらわれです。それなのに、「はっきり嫌だと言わなかったのがいけない」というのは、現実を理解しない暴論だと言わざるをえません。

 

 女性は断わるときも相手のメンツを潰さないようにするし、とくに気遣いをする女性なら、相手が気に入りそうな表現を探して、相手を立てるかたちで断るでしょう。たとえば、「光栄ですが・・・」は一般的に、誘いやオファー、依頼などを丁寧に断るときの常套句ですが、イギリスの社交界などでは、男性の求愛に対して女性が「光栄です」と答えるだけで、その気がないことを意味しました。

 

 また、男性の態度によっても、女性の断りにくさが違ってきます。男性の方で、女性に断られまいとする警戒心が強ければ強いほど、女性は断りにくい立場におかれます。それに、仕事や何かにかこつけたアプローチは、セクハラか何か分かりません。そうすると、女性は何も言えません。

 

 婉曲な断りがいつまでも伝わらない場合、女性は徐々に妥協的にならざるをえなくなります。上司に可愛がられて目を掛けてもられるメリットと、関係を悪くして冷遇されるデメリットを考えれば、多少のことなら我慢してしまうし、大して踏み込んでこられなければ、問題がないかのようにも感じられてくるかもしれません。

 

 断られると機嫌が悪くなりそうな男性に対しては、断りの言葉も婉曲になります。相手に対する嫌悪感が伝わってしまうだけでも、気を悪くされると恐いから、なるべくそれを隠して、感じ良く振る舞うようにします。報復を恐れて不快感や苦痛を押し殺して我慢してしまうこともあります。女性から見て、嫌われると恐いと感じる年長の男性というのもあります。自分の気に入らない人間は圧力をかけて排除しよう、という気配のある人や、プライドが高く、少しでも自尊心を傷つけられるとムキになるタイプなどです。

 

  • 最初は本当に女性が喜んでいた場合

 女性が上司などの好意を喜んで、仲良さそうにしている時期があった場合、後にセクハラ問題に発展した時、本当に「恋愛関係のもつれ」という話にされてしまうでしょう。

 

 しかし、女性が何を喜んでいたのかが考慮されなくてはならないと思います。つまり、恋愛関係を喜んでいたのか、それとも上司に自分の能力を認められて、気に入られて、目をかけてもらえていることを喜んでいたのか、といった点です。

 

 男性が同性の上司に、自分の仕事を評価されて、気に入られ、抜擢された場合でも、当然嬉しくなって、その上司と親しくするでしょう。女性の場合だけ、それを恋愛感情のはずだとするのは、どうかしています。

 

 

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