歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

話を逆転させるパラノイア(妄想性障害)

 パラノイアは妄想症ですが、特定の妄想以外の思考、言動には異常がみられず、職業上も、ふつうの人のように暮らしています。幻覚や幻聴があったり、周囲の人に意味不明の言動を繰り返す、統合失調症のような精神病とは、かなり異なります。

 

 稀な病気で、罹患率統合失調症に比べてもかなり低いもので、本人に病気の自覚がなく(自分では困っていないので、あまり病院に行かない、ということ)、治療も難しいと言われています。中年期から老年期に発症し、男性に多いとされます。

 

 妄想の内容には、被害妄想、誇大妄想、嫉妬妄想、好訴妄想(復権妄想)、被愛妄想(色情パラノイア)、心気妄想などがあります。妄想は体系的に持続し、発展します。

 

 

すべての事実を正反対に逆転させる 

 「いつのまに反対の話になっているんだろう?」と感じることがあったら、その人はパラノイアかもしれません。たとえば、他人に対して自分が敵意を持つと、相手が自分に敵意を持っていると思い込むのが、パラノイアの症状の一つである<被害妄想>です。自分が怒っていると、相手が怒っていると錯覚します。

 

 また、配偶者や交際相手が浮気しているにちがいないと疑う嫉妬妄想のある人は、浮気をしている可能性が高いと言われています。

 

 こうした心の働きを〈投影〉といいます。それは、自分が認めたくない自分の感情や欲求(恥ずべきものや劣等なもの)を、相手が持っているものだと思い込む働きです。

 

 〈投影〉については、下の記事をご参照ください。 

 

echo168.hatenablog.com

 

 〈投影〉ばかりする人にあうと、すべての話が逆転します。パラノイアは重症になると、すべての事実を正確に逆転させて、相手を攻撃してきます。たとえば、自分がストーカーである場合は、自分の妄想のターゲットをストーカーだと思い込んで、そう言います。

 

 この病気の人の人格が醜く恥ずべき悍ましいものであればあるほど、それを他人に投影して、非難し、攻撃します。妄想がひどくなると、「(相手の)すごいスキャンダルを握った!」(本当は自分のスキャンダルなのですが・・・)と思い込んで、侮辱するだけでなく、さらに脅迫したり、誹謗中傷を撒き散らしたり、訴えたりしてきます。

 

 

パラノイアは普段、正常者として暮らしている

  パラノイアの人は、普段はふつうの人に見えます。たとえば、一人でブツブツ言っていたり、奇声を発したり、明らかに会話が成り立っていなかったりすれば、私たちは相手に何か異常があると分かりますが、その点では、パラノイアの人はふつうです。傷つきやすく用心深いので、自分を守ることをよく考えており、物腰の低い、丁寧な人に見えていることもあると思います。

 

 異常なのは、自分自身の人格や感情や欲求などを他人(特に妄想のターゲットにされた人)が持っていて、自分はその対象になっていると思い込む 精神構造や思考回路です。また、攻撃性が驚異的に強いことです。

 

 妄想の内容も、たとえば統合失調症の人にあるように、「自分は政府に監視されている」とか、「自分の思考を他人に盗み取られている」といった類の、現実離れした内容ではなく、どこかにありそうな最低の話に聞こえる内容です(言ってみれば、自分自身の人格を、相手のものだと思い込んでいるだけの妄想なので)。

 

 嫌がらせの仕方にしても狡猾で、法律に引っかからない方法を身に付けています。何かと用意周到で、老獪ですらあります。パラノイアは、ストーカーになりやすいタイプの一つです。福島氏はパラノイド系のストーカーについて、次のように書いています。

 

「診断も処遇も難しい。彼らの話はたいてい論理的で、大いに説得力がある。したがって、事情を調査し、相手の言い分を注意深く聞かなければ、三者が彼らの信念を真に受けてしまうことも珍しくない」(福島章『ストーカーの心理学』PHP新書, 1997年, pp.90-91)。

 

「パラノイド系のストーカーは、一般に、恋愛妄想をもつほかには精神的な機能は低下していないので、行動そのものは合理的かつ計画的に遂行しうる。それだけに、行動もよく工夫されており、緻密で、巧妙である。さらに、パラノイド型の人の妄想に対する情熱というものは、常識では考えられないほど強固で持続的である。パラノイドの人々は、その《妄想》(といっても、本人はその観念を妄想だと思ってはいないのだが)に全生活・全生涯のエネルギーを捧げ尽くすことも稀ではない。・・・

 たとえ被害者がストーカーのことを保健所や保健センターに訴えても、パラノイド型は一見すると正常者に見えるし、言うこともそれなりに筋が通っているので、一回の面接で精神障害と診断してもらうにはよほど強力な証拠を示さなければならない。反対に、被害者として訴えてきた方が、被害妄想や関係妄想をもっている患者ではないかなどという疑いをかけられることすらある」(pp.92-93)。

 

 ストーカーになる場合、〈被愛妄想〉をもっている場合がよくあります。色情パラノイアクレランボー症候群)は、非常に人間離れしています。ここでも〈投影〉が働くので、<自分がターゲットにする相手が、自分に恋愛感情をもっている>と感じます。投影らしい投影になると、相手だけが恋愛感情をもっていると思っています。そしてしばしば、自分のそうした妄想を胸に秘めたまま、執拗につきまとい、凶暴な男性の場合などは、思いどおりにならなくなった時点で、態度を豹変させて襲撃します。〈被愛妄想〉には、特異で奇怪な特徴がいくつかありますので、改めて取り上げます。

 

 パラノイアの人に関わる人は、相手をパラノイアと知らずに親切にしてしまうと(子ども時代に悲惨な経験などをしていて、可哀そうに見える人が、おそらく結構います)、善意をもって親切にすればするほど、後でものすごい話にされて攻撃されます。

 

 また、自意識が過剰で、いつも自分と他人の関係を気にしていたりするので、つい気を遣ったりしてしまうと、とんでもない関係性の中に巻き込まれます。

 

 

被害者に対して「復讐」をする

 パラノイアの人は、ちょっとした事で自分の権利が侵害されたと感じ、相手を法的に訴え、闘争意欲を燃やして私財を投げ打ってくることもあります。これを〈好訴妄想〉といいます。被害者意識が強く、自分の権利を取り戻し、体面を回復させようとする復讐心が強いため、他人に対して攻撃的になります。

 

 自分の妄想のせいで他人に一方的な嫌がらせをするような人の場合は、特に危険です。被害者がパラノイアの人からの嫌がらせをやめさせようとすると、自分が不当な攻撃を受けていると感じて、怒りを爆発させます。

 

 つまり、自分が人に嫌がらせをして、嫌がられると憎悪を募らせて、「復讐する」と言い出すのです。

 

 たぶん、パラノイアの人がストレートに自分の感情どおりに振舞うと、ふつうの意味で「最低の人」ですが、自分を「最低の人間」と思いたくないのがパラノイアなので、パラノイアの人は、「それは相手だ。自分は正義のために、その仕返しをしているのだ」と主張するのです。

 

 

醜悪な妄想の対象にされる被害

 パラノイアの人は、ほかならぬ自分自身の本性である醜悪な人格を相手に「投影」して、侮辱や冒瀆、誹謗中傷などを行います。つまり、事実と正反対の、しかもスキャンダラスな話を、執拗に繰り返し擦り付けてきます。パラノイアの人の妄想の中では、それが「事実」で、自分はその証拠を握っていると確信しています。

 

 パラノイアの人は狡猾で、まことしやかに誹謗中傷を行ないますので、被害者は第三者から「そんな人だったのか」と思われるハメになります。「どっちもどっちなんだろう」と思われただけでも、被害者の名誉は地に落ちているでしょう。そのような仕方で、被害者を社会的に抹殺しようとする攻撃は、殺人や暴行に比べてあまり犯罪扱いされないので、パラノイアの人は簡単にそうした方法をとってきます。(ただし、パラノイアの人は繰り返しいろんな人とトラブルを起こしていることもあるので、見る人が見れば、分かるかもしれません。)

 

 なにかと事実が逆転し、話が倒錯するので、被害者のほうが頭がおかしくなってくるでしょう。とりわけ、被害者が〈投影同一化〉の影響を受けてしまい、狂人の妄想の対象にされているという正しい認識ができずに、「自分が勘違いや誤解をさせることをした」と感じてしまうと、精神的に立ち直れません。

 

 *「パラノイア」は、現在の精神医学では「妄想性障害」と言われます。

 

echo168.hatenablog.com

 

*「色情パラノイア」にあたるものについては、こちらを参照してください。

 

 

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