歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

妄想性人格障害(DV・ストーカーのタイプ)

 DV を行う人の多くは、妄想性人格障害かもしれません。極めてタチの悪い執拗なストーカーにもなるタイプだとされます。一般人口の 0.5 ~2パーセントに見られます。岡田尊司先生の『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』の中の記述が非常にリアルでしたので、要約します。

パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)

パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)

 

 

 

裏切りを恐れる

 妄想性人格障害の人は猜疑心が強く、親密な関係にある人からの裏切りを恐れます。親しい相手を監視したり、その行動を把握しようとしたりします。相手から避けられそうになると、いよいよ猜疑心が強くなります。

 

過度の嫉妬心

 パートナーに対しても嫉妬深く、根拠の薄いことで相手の不貞を疑い、行動を束縛します。妻を他の人と接触させないように、家の中に閉じ込めておいたりすることもあります。アルコール依存症があると、その傾向は強まります。

 

DV やストーカー

 妄想性人格障害は、激しい家庭内暴力の原因になったり、タチの悪い執拗なストーカーになったりします。孤独で傷つきやすく、警戒心が強く、人になかなか心を開きませんが、いったん心を開くと、相手が特別な存在になります。

 親切を好意と取り違えて、恋愛妄想を抱く場合もあります。

 こちらは、そういうつもりではないのに、気がついたら恋人のように錯覚して、肉体関係や結婚を迫られるということも起こる。それで、拒絶しようものなら、彼の猜疑心と屈辱感に火がつくことになる(岡田, 前掲書, p.186)。

 相手が自分の期待に応えないと、今度は逆恨みに転じます。脅迫を行い、犯罪行為を実行されることもあります。痴情がもつれて殺人事件に至るような場合、このタイプの人物が関与していることが多々あります。

 

プライドを傷つけられると、激しい怒りを抱く

 妄想性人格障害の人は柔軟性に欠け、些細なことでも攻撃と受け取り、名誉を傷つけられたと感じて激しい怒りを抱きます。現状とはかけ離れた高いプライドを持っており、侮辱されたと感じると、執念深く恨みます。他人には分からない程度の事でも、すぐに怒って反応したり、逆襲したりします。

 

負けることが許せない

 このタイプの人は、負けることが許せません。自分のプライドを傷つけられて引き下がることができず、どんな手を使ってでも、戦いに勝とうとします。中には、生涯の大部分を訴訟や諍いに明け暮れて過ごす人もいます。間違っても、彼を諌めようなどと思ってはいけません。

 

 彼にとって訴訟など朝飯前のラジオ体操のようなもので、あなたにとっては、寿命を縮める出来事でも、彼には活力源となるのだ。最悪の場合、命を付け狙われることになる。

 そうした状況に立ち至ったら、下手に言い訳したり、彼と議論して説得しようなどとは思わないほうがいい。ましてや、戦おうとは思わないことだ。彼と互角の戦いができるのは、国家権力だけだ。*1

 

人を権力で支配しようとする

 彼らは人との信頼関係や愛情関係を信じることができないので、権力や力で支配しようとします。権謀術数を操ることに強い興味をもち、人間関係を心のつながりではなく、上下関係や力の関係で捉えます。

 対人的な操作を行う能力も持っています。 

 

気分の波

 妄想性人格障害は、しばしば気分の波を伴い、昂揚して行動的になる時期と、意気消沈して反省的になる時期とがあります。自分の妄想的な思い込みに夢中になっているときは元気ですが、その思い込みが非現実的だと分かると、落ち込みます。

 

過度の秘密主義

 自分のプライバシーや出自に関することには、非常に過敏に反応し、はっきりとした答えを避ける傾向があります。

 

権力者の病

 妄想性人格障害は、古代ローマの時代から、独裁者に多い病だとされてきました。絶対権力を手にした万能感と、いつ裏切られて権力の座を奪われるか分からないという不安によって、こうした病に陥っていきます。ヒトラーも、極度の秘密主義と強い猜疑心を示しい、知りすぎた者には、容赦のない粛清を行いました。

 

「父親」との戦い

 この人格障害の人には、必ず人生のどこかで、その歪んだ世界観の原体験をしています。多くの場合、父親に愛されなかった、あるいは父親を恐れていたといったことがあります。根元には父親を求める気持ちがありますが、「父親殺し」のテーマが人生を支配していることが少なくないようです。あからさまに父親への殺意を口にする人もいますが、多くは権力者や迫害者との戦いに置き換えられています。

 

強い妄想信念

 いったん思い込むと修正が利きにくく、妄想信念に基づいて、とんでもない事件を起こすこともあります。大量殺人者の場合、妄想信念(あるいは、妄想)が殺意を生んでいることが多くあります。

 

親密になるリスク

 親しくなって、心を許した素振りを見せることが、その後の災厄を招くと岡田先生は書いています。このパーソナリティの人物は大変エネルギッシュで、頼りになり、また最初は親切に力を貸してくれたりするので、人はつい頼りにしてしまうことがあります。

 しかし、上にあげたような特徴がありますので、うっかり親しくしてしまったりすると、困惑したり、恐怖を感じたりすることになるでしょう。しかし、それで急に冷淡な態度をとったりするのは、かえって危険だと、岡田先生は指摘しています。猜疑心に火がついてしまうからです。何か些細なことでも、このパーソナリティの人に不利益が生じると、その途端に蜜月関係は終わりを告げ、猜疑と怒りの日々に変わります。

 このタイプの人と接する場合は、深い感情移入を避けることが大切です。自分の無理な要求が拒否されると、彼はそれを裏切りと受け止め、激しい怒りと復讐心を募らせます。

 

まとめ

 岡田先生は、パーソナリティ(人格)障害の共通の特徴として、〈自己愛の病理〉としての側面があることを指摘しています。つまり、自分への強い拘りと傷つきやすさ、そして信頼したり、愛したりすることの障害です。

 

 妄想性人格障害は、前にDVを行う男性のタイプとして書いたものと、かなり重なっている部分があると思います。

 

echo168.hatenablog.com

 

パラノイア(偏執病、妄想病)との違い 

 妄想性人格障害にはパラノイア(偏執病、妄想病)の嫉妬妄想や被害妄想、好訴妄想、被愛妄想のようなものがあります。妄想性人格障害からパラノイアになることもあるようです。

 妄想性人格障害パラノイアとの区別は、専門家でも難しいようです。妄想性人格障害の場合はそこまでではないのだと思いますが、パラノイアの妄想は揺るぎない確信で、体系的に持続、発展して、崩れることがありません。あまり重症になると、自分の妄想を「事実」だと信じ込むあまり、相手のとんでもない秘密を握っているつもりで、脅迫までしてきます(実際のところ、根も葉もない誹謗中傷を事実としてばら撒かれるということなので、被害者にとっては「脅迫」として通用してしまいます)。

 

 また、上に描かれている恋愛妄想はまだ、自分が好きな相手と交際したいという人間らしい心理の延長ではあるので、人間に理解可能な範囲です。しかし、 パラノイアの被愛妄想(愛されているという妄想で、奇妙な特徴がいろいろあります)が本当に重症になると、そうした普通の人間の心理とは本質的に違ってきて、人によってはストーカーらしいストーカーというよりも、奇形的で冒瀆的な変質者になります。 

*1:「妄想性パーソナリティ障害の人は、恭順の意志をはっきりと示した者には、寛大な一面を持っている。怒りを爆発させ、それにじっと耐えているうちに、風向きが変わることはありうる。ただし、それが組織委的な妄想性集団となると、話は別である。そこでは、個人を超えた集団心理が働き、余計歯止めを失うことになりやすく、極めて危険である」(岡田, 前掲書, p. 187)。